パリマダムは「おばさんっぽい」服は着ない。「年相応」ではなく「自分相応」の服を選ぶ
人の目を気にせず、恋愛も仕事もファッションも自分のスタイルで謳歌する……そんな"パリジェンヌ流の生き方"に憧れている人も多いのでは? 【画像一覧を見る】 ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRのトップをつとめ、業界内外で「もっともパリジェンヌな日本人」と称された藤原淳さんが、「すっぴん=ありのままの自分」で爽快に生きるパリジェンヌたちの姿を綴った著書を上梓。その中から「自分らしさ」を貫くための考え方とヒントを4回にわたってお届けします。日本のファッション誌ではおなじみのあのページがフランスには存在しないワケとは?【パリジェンヌはすっぴんがお好きvol.3】に続き、連載第四回目です。 ※本企画は、藤原淳さんの『パリジェンヌはすっぴんがお好き』(ダイヤモンド社)からシリーズ4回でご紹介します。
パリジェンヌはハイヒールがお好き?
パリに暮らしていると、街中で素敵な年配の女性とよくすれ違います。私が住む建物の管理人のおばさんは、ポルトガル出身ですが、40年以上もパリに住んでいる筋金入りのパリジェンヌです。そして夏でも冬でも、花柄の短いワンピースにヒールの靴を履いています。 建物で最年長、ファッションジャーナリストの大内順子さんにそっくりの大きなサングラスがトレードマークのおばあさまは90歳を優に超えていますが、彼女もいつもハイヒールです。杖をつきながらヒールでヨチヨチ歩いている姿を見かけると、私など心配でかけ寄りたくなってしまうのですが、一人暮らしの彼女は人の助けを必要としません。 おしゃべりな管理人さんの話によると、彼女がヒール以外の靴で出掛けることはないそうです。ヒール以外の靴は持っていないのかもしれません。
60年かかって見つけた自分に似合うヒールの高さ
ある週末のこと。たまたまエレベーターでそのおばあさまと居合わせることがありました。気まずい沈黙を破ろうとした私は、後先考えず、 「そのお靴、素敵ですね」 と口走っていました。 (くだらないことを言ってしまった……) 後悔していた矢先、マダムがにこりともせずに言いました。 「5センチよ、5センチ」 「??」 「ヒールは5センチが最適なの」 見てみると、確かにヒールは高すぎもせず、低すぎもせず、ぴったり5センチです。 「やっと自分に合う高さがわかったのよ」 キョトンとしている私におばあさまは、 「いろいろわかったのは、60を過ぎてからよ」 そう言い残し、エレベーターを降りて行ってしまいました。 おばあさまは、自分に合い、自分が素敵に見えるヒールの高さを長年発掘してきたと言うのです。そしてそれを見つけるのに60年かかったと言うのです。エレベーターに一人、取り残された私は、なんだか背筋を正された思いでした。 当時の私は20代後半。自分のルックスが定まらず、試行錯誤を繰り返していた時です。この頃の写真を見ると、かなり一貫性のない格好をしています。服に着られてしまっていたり、ちっとも似合っていなかったり、あまりサマになっていません。豪華な陶器に盛られて肩身が狭そうな惣菜や、反対に粗末なお皿にのせられてあまりパッとしないご馳走のように、なんだかチグハグなのです。 自分らしいスタイルがなかなか見つからず、焦りを感じていた私ですが、5センチのヒールのおかげで大事なことを見落としていたことに気が付きました。それは、私がこの歳で「サマになっていない」のは、ある意味、当たり前だということです。 おばあさまが「サマになる」ヒールを見つけたのは60歳を過ぎてから。つまり、60になるまで、いえ90になるまで、いろいろ試してみたっていいということです。ゆるりと一年一年、試行錯誤を繰り返しながら、自分という軸を確立していけばよいのです。 そう思うと、歳をとるのが嫌なことではなく、私だけの密かな楽しみのような気さえしてくるのでした。 「五十にして天命を知る」と言ったのは孔子ですが、5センチのヒールのおばあさまは、「六十にして我を知る」と言い放った強者なのです。