F1王者争いは「究極の精神戦」中野信治がフェルスタッペンvsノリスの勝負を分けたポイントを解説
【チャンピオン争いは究極の精神戦だった】 ノリスはもともとすごく性格がいいように見えますが、対してフェルスタッペンは勝つことが当たり前で、ある意味、自分が負けるとは思っていないところがあります。そんなフェルスタッペンに対抗するためにノリスは今シーズン、自分の本来のスタイルじゃない戦い方をせざるを得なかった。大きなエネルギーが必要で、精神的にキツかったでしょう。 ノリスは顔にマスクをして、本来の自分とは違う人間になって戦っていたイメージだった思います。そうしないとフェルスタッペンに勝てない。2010年代に当時メルセデスでチームメイトだったルイス・ハミルトンと激しいチャンピオン争いを繰り広げたニコ・ロズベルグの姿が重なりました。 ロズベルグとハミルトンは幼い頃からの親友でしたが、チャンピオン争いが激化するにつれて関係が変化し、最後はほとんど口も聞きませんでした。ロズベルグは2016年にハミルトンを倒してタイトルを獲得しましたが、それぐらいしなければハミルトンに勝てなかった。 モータースポーツはメンタルの戦いでもあります。今シーズンのチャンピオン争いは究極の精神戦でした。フェルスタッペンは、完全にノリスの「気持ちを折る」戦いをしてきました。プレッシャーをかけ続け、相手をつぶしにいきました。そういう戦いをされると、ノリスは何ともないと思っていても、どこかで必ず遠慮するというか、ボディブローのように効いてくる。 それがフェルスタッペンの強さだし、最後には誰もが認めざるを得ない速さもありました。少なくとも今シーズンに関してはフェルスタッペンの完勝だと思います。実際、最終戦アブダビGPが終わったあとのノリスのインタビューにすべてが表われていると思います。「やっぱりフェルスタッペンと戦うのはラクじゃなかった」としきりに言っていました。この言葉がすべてを物語っています。 もうひとつフェルスタッペンの勝因を挙げるとすれば、レッドブルのチーム力です。マクラーレンのマシンに圧倒的なスピードがあり、ノリスは一時的にフェルスタッペンとのポイント差をひっくり返すくらいの勢いがあったのですが、結果的にフェルスタッペンが守り抜いた。その背景にはレッドブルのスタッフの力がありました。 走らないクルマを何とか勝負できるようにするために、レッドブルはチームのすべての知見を集結させ、決勝がスタートするギリギリまで努力を重ねていました。レッドブルのチームとしての勝利へのこだわりというか、執着のようなものを感じました。今シーズン、速さという点でマクラーレンが上回っていましたが、強さという面ではレッドブルとフェルスタッペンに分があったということだと思います。