指導者として第二の野球人生を歩み始めたイチローが目指すのはメジャー監督?GM?新しい価値観を創造できるのか
監督はゼネラルマネージャーらが決めた打順に従い、彼らの指示通りに選手を起用する。それに異を唱えれば、監督の座を追われるだけ。また今の時代、データがこれまで以上に重要視され、結果的にフロントの権限拡大に繋がった。 昨年の秋、USA TODAY紙の取材に対し、カブスのジョー・マドン監督も、こう答えている。 「フロントの人間は自分たちと同じ考えを持ち、評価手法などを受け入れてくれる人材を監督に求めている。もし、データ分析に基づく野球を受け入れられなければ、その時点で大リーグの監督になるチャンスを失う」 元々、大リーグの監督は中間管理職と言われてきたが、監督の裁量権は今、より小さくなっている。そんな変化を目の当たりにしてきたイチローが、そこを目標にするだろうか。デレク・ジーター(元ヤンキース)がオーナーグループの一員としてマーリンズを買収した後、CEO(最高経営責任者)に就任したのもそういう流れと無縁ではないだろう。 これに伴って選手評価も変化。本質とかけ離れたデータが過大評価される一方で、データに現れない部分ーー本来、評価されるべきプレイが見過ごされる。 ある時、そんなメジャーの変化について、イチローがこう話したことがある。 「しょうがない。そういう時代だよね」 あきらめ顔だった。 「病気が出来たら、それを治す薬は、その後しか出てこない。そういう時期なんだね」 それが実は引退会見で口にした、「頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつある」と漏らした一端だが、ならば、イチローには新しい薬を作る役割を期待したいが、どうだろう。 すなわち、新しい価値観を創造するということ。リッキーとシスラーがかつて、人種という壁に挑み、それを乗り越えたような。 シスラーは後に、再びリッキーについてパイレーツへ移ると、後にメジャー通算3000本安打を放つ若き日のロベルト・クレメンテの指導を行った。そして確実性に欠けた彼にやや重いバットを使うよう提案し、その後の成功を導いたとも伝わる。 そう助言したのは、スイングスピードが速すぎてスイング軌道が一定しないという理由だったそうだが、スイングスピードや打球の初速がそれだけでは意味を持たないのに、過大評価される現代野球では、クレメンテが偉大な選手になることはなかったかもしれない。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)