DNAを組み立てれば、生命はつくることができるのか。生命活動の発動スイッチはどこに
泥火山が微生物を豊穣の環境に送り出す
――それをたしかめる方法はあるのでしょうか? ひとつの手段として僕たちが考えているのは、海底泥火山の調査です。1千万年以上も前の古い地層から、メタンガスなどといっしょに泥が噴出して円錐形に積もったもので、世界各地の大陸縁辺域に分布しているんですよ。日本周辺でも、紀伊半島沖の熊野灘や種子島の東沖にたくさんあります。 その泥火山の堆積物から海中に放出された微生物のDNAを、僕たちは数年前に初めて発見しました。本来は海中にいない種類の微生物です。 1千万年も前の地層から、泥火山の「噴火」によって、いまの時代に送り届けられたんですね。 その微生物が生きていて、栄養豊富な海底下の堆積層で増殖するかどうかは、まだわかっていません。当初は「深いところよりも我々の目からは良い環境に見えるので、また生えてくる(増殖する)のではないか」と想像していましたが、いまはそれに疑問を感じています。現在の環境には適応できないかもしれません。 2023年の8月にも種子島沖の泥火山の調査に参加させてもらいました。まだ結果は出ていませんが、なにしろ古い泥なので、いまは海底の表面になっているにもかかわらず、その中には微生物がほとんどいないんです。そのため、調べるのも簡単ではありません。
生息域による微生物の違い
――深いところほどゲノムサイズが減るとのことでしたが、DNAの機能の違いも調べられるのでしょうか? いま、それに取り組んでいるところです。浅いところと深いところで、ゲノムがどのように変化しているのか。深いところで生き残るには、どのような機能が重要なのか。これは、海底下での進化メカニズムを知る上でとても興味深い問題です。 また、個々の微生物だけでなく、浅いところと深いところの微生物コミュニティの違いも研究しなければなりません。このグラフを見てもらうとわかるのですが、そもそも海底下の微生物コミュニティの構成は、海中や土壌中とはかなり違います。グラフの左側が海底下の堆積物、中央が海洋、右側が表層土壌。門レベルでの区別ですが、色の違いが種類の違いを表しています。 ――なるほど、アーキアもバクテリアも、まったく色分けが違いますね。 具体的には、たとえばクロロフレキシ、アトリバクテリア、エアロフォベーテスといったバクテリアが多いのが海底下の特徴です。こういう特別なコミュニティが、深いところに埋もれていくほど数が減り、構成する種類もちょっとずつ変わっていくんですね。 でも、そういうコミュニティの変化がどういう理屈で起きているのかが、まだあまりわかっていません。陸上や海中なら、どんな条件がコミュニティを変化させるかはわかりやすいんです。環境が変われば、餌をめぐる競合などが起きますから。 しかし、海底下はそもそも外から何も入ってこないので、環境はすごく安定しています。つまり、微生物コミュニティが変化する理由が乏しいんですよ。それなのに、実際問題として、深さによって微生物のコミュニティは変化している。すべての種類が一様に減っていくだけで、自然選択はあまり起こらないのではないかとも想像されますが、それもわかりません。