ハマス最高幹部を殺害したイスラエル、だが肝心の人質解放は「米大統領選の後」になりそうな根拠
■ イラン・アメリカ大使館人質事件の“教訓” 1980年の大統領選は、共和党のロナルド・レーガンと民主党のジミー・カーターとの間で激しく争われたが、時の選挙戦で最大の課題となったのは1年強イランで捕らえられていたアメリカ大使館職員の解放であった。 この人質解放は1年後しばらくしてから実現したが、それは、大統領選の期間中ではなく、選挙戦が終わった翌年1月21日のレーガンの就任式の当日であった。これはレーガンの選挙参謀ビル・ケーシーが、イラン側に働き掛け、大統領選投票日の11月4日前には人質解放は行わないよう働き掛けていたからだとするものである。 これとは別に、トランプとネタニヤフとの間に上記のような暗黙の了解があったとするもう一つの根拠は、何としてもトランプに勝って欲しいネタニヤフは、トランプの意向を自ら忖度して、〈人質解放を行うとしても、早期には行わず、11月5日の投票日が終わるのを待ってから行う〉とするものである。 このように推測するのは、ネタニヤフとトランプとの関係は、近時急速に緊密度を増している一方、これとは対照的に、バイデンとの関係はここ一年の間に急速に悪化しており、ネタニヤフはバイデンの白星となるようなアクションは決してとらないであろうと推測されるからである。 昨年10月バイデンはネタニヤフとの電話中に怒りのあまり電話機をハングアップした(電話を切った)との情報があり、さらに今年の3月、バイデンは再びネタニヤフから電話を受けたが、直ぐには返答しなかったとのうわさもある。 また、バイデンは、ホワイトハウス内での私的な会話で、「ネタニヤフは彼との約束をbetrayしている(裏切っている)」と述べたとされる。さらにこの10月にも、バイデンはネタニヤフから電話を受けたが、直ぐには返答しなかったと噂されている。
■ 「ネタニヤフはバイデンの言うことには耳を貸さない」 これとは対照的に、トランプとネタニヤフとの関係は極めて良好で、ネタニヤフがこの7月にアメリカを訪問した際もトランプの実質的な自宅であるマー・ア・ラゴに招かれ、親密な話し合いをした。 さらにこの10月半ばに今度はトランプの方からネタニヤフに電話を入れ、イスラエル・ハマス戦争等について話し合ったが、この電話会談の後でトランプは、記者団に対して、「ネタニヤフはバイデンの言うことには耳を貸さない」と述べた(その後イスラエルの総理府は、米国側の反応に顧慮して、「ネタニヤフがそこで言ったのは、イスラエルは、米国がなんと言おうと、自国の利益を第一に考えて、必要な措置を取る権利がある」と述べただけだと修正したが)。 このように、バイデン・ネタニヤフの関係とトランプ・ネタニヤフの関係は、見事な対照を示しており、そのような中で、ネタニヤフが、民主党政権政権を利するようなことはまずしないであろうと容易に推測できる。 いずれにせよ、今回の大統領選挙は極めて拮抗しており、小さな「オクトーバー・サプライズ」でも、勝敗に大きく影響を与える可能性がある。投票日まで2週間を余すところとなった今、日々の動きを注意深く追いかけていく必要があろう。
塚田 俊三