「ひとりで死にたくない」コロナで結婚を決めた40代男性の「大きな誤算」
「これで3回目です」
浩司さんから連絡があったのは、平日の朝でした。「昨夜から妻は家に帰って来ませんでした。朝帰りさえしない。これは絶対浮気している。調べてください。概要はメールで送ります」とおっしゃいます。カウンセリングを提案すると「ムダなんですよ。もう何度も話し合いをしているので、これで3回目です。慰謝料付きで離婚するしかない」と絞り出すような声で言いました。 私たちは調査をする前に、その目的は何か、どんな困り事があるのか依頼者の方としっかり話し合うようにしています。そのことをお話しすると、「とりあえず、今から伺います」とおっしゃいました。 カウンセリングルームに来た浩司さんは、徹夜のせいなのか目の下のクマが目立ちます。クセがある髪の毛をスッキリまとめており、これがユニークなデザインのメガネに合う。体型はとてもスリムで、音楽や映像のアーティストのような雰囲気です。大手企業に勤務しており、IT関連の部署にいるとおっしゃっていました。 電話の雰囲気とは全く違い、「さっきは取り乱してしまって、本当に申し訳ございません」と謙虚な姿勢で話し始めました。
独身のままコロナで死ぬのは嫌だから結婚しませんか?
「妻と結婚したきっかけですか? それはコロナです。ステイホームが強要された時期があったじゃないですか。あのときにZoom飲み会が流行って、そこで出会ったのです」 IT関連の仕事をしている交流会といったゆるい繋がりで、週1の飲み会が続くうちに、連帯感が醸成されて行きます。それと同時にみんなの顔が丸くなってきました。 「僕と妻だけ、頬がこけていて、顎が尖っている。妻の方から“みんなぽっちゃりして来ましたね”とチャットが来て、2人で話すようになったんです。お互い、太りにくい体質だとわかり意気投合。家デートを繰り返すようになり、妻から“独身のまま、コロナで死ぬのは嫌だから結婚しませんか?”と言われて、僕もドキッとしちゃったんです」 浩司さんは、女性経験は豊富ですが、これまでは結婚まで至らなかったそうです。 「僕の趣味はアートや工芸品の収集、名建築を探して旅をするとか、金がかかる。だから“こいつは夫として頼りない”と思われるんでしょうね。同級生がパパになったり、伴侶をもったりするようになる様子を見ているうちに、結婚へと気持ちが動き始めていました」 妻側の結婚への背景はもっと切実で「もし、入院になった時の身元保証人が独身のままでは親になってしまう」とか「親に延命措置の有無など決断させたくない」「死んだ後の遺体引き取り人も親は避けたい」「ひとりで死にたくない」などと言っていたそうです。 「コロナは死を強く意識した時期でした。妻は一人っ子で、親に迷惑をかけたくないという気持ちが強い。それに、家族がいない孤独も身に染みると言うので、結婚することにしたのです」