白濁して輝きを失った新米、収穫は4割減。大雨・猛暑ダブルパンチ 秋田・大仙市の農家の嘆き「最悪の出来だ」
「50年農家をしていて、最悪の出来だ」。秋田県大仙市で米農家を営む佐々木義実さん(69)の田んぼは、今年7月の大雨で1日半もの間、冠水した。さらに土砂崩れで、山あいにある田んぼと用水は壊滅的な被害を受けた。そして8月には、記録的な猛暑や干ばつで、ため池が枯渇し田んぼはひび割れを起こした。平地にあった米の収穫は昨年から4割減。米は白濁し、新米から輝きが失われていた。(共同通信=赤羽柚美) 地球温暖化、農作物70品目に深刻なダメージ 品質低下や収穫量減少 コメ、野菜、果物、豆類…食卓が脅かされる 22年
▽「稲が呼吸できない」 「朝起きると集落が陸の孤島になっていた」。佐々木さんの自宅と田んぼがある大仙市大沢郷宿椒沢(おおさわごうしゅくはつかみさわ)は、雨が降り続いていた7月16日早朝、周辺が一面、茶色の水で覆われていた。低い場所にある水田はほぼ全て冠水した。「稲が呼吸できなくなってしまっていた。このままでは昨年の半分も収穫できないかもしれない」。道路も冠水したため、集落の外に出ることができなかった。 佐々木さんはさらに衝撃的な被害を発見する。山あいにある田んぼでは土砂崩れが起きたのだ。山あいの田んぼは1970年に減反政策が始まったとき真っ先に減反したが、その後荒れてしまい、18代続く祖先に申し訳ないと思ってなんとか復田した、思い入れの田んぼだった。「これは現実か?その光景を見た時は一瞬言葉が出ねがった」。しかし崩れた土砂をどかし補強工事をするのは莫大なお金がかかる。税金を使っての工事も提案されたが、これ以上山の斜面が崩れないようにするための簡単な工事をした。
被害は続く。水がひくと木や枝などのゴミが流されてきていていたことが判明。23日には、集落で集まって道路や用水路に流れ着いたゴミを取り除いた。 秋田県では農林水産分野の被害額が約138億円に上った。冠水などで被害を受けた水稲は5280ヘクタールで、約22億円にも上る。 ▽冠水の原因 佐々木さんら水害地区の関係者は8月、秋田県庁と国土交通省東北地方整備局湯沢河川国道事務所に、ポンプなどを使って内水排水対策を講じるよう要望に行った。 大仙市の大沢郷は1級河川の雄物川と、近くを流れる支川大沢川が合流する付近に位置する。2022年度には合流部に、本流である雄物川が逆流するのを防ぐため大沢川に排水樋門がつくられた。 湯沢河川国道事務所によると、今回の大雨では、雄物川が大沢川に逆流しないよう、7月15日23時40分頃には完全に門を閉め、16日の17時50分には門を完全に開けた。しかし、もともと雄物川に流れていた大沢川の水も流れなくなってしまうため、内水が増水して排水できず、冠水したという。一般的な内水対策としては、排水機場という支川の内水をポンプで排水する施設や、移動可能なポンプ車、川の流域の山などに水が浸透する場所の確保、貯水池の確保、ハザードマップの作成や家屋のかさ上げなどがある。しかし佐々木さんの地域では、排水機場はなく、貯水池などもなかった。ハザードマップは、外水のハザードマップはあったが、今回の冠水の原因となった内水のハザードマップはなかった。