「今考えているかどうかだけに焦点を当てて授業をする」…神奈川御三家の元・教師が不登校の子に「学び場」をつくった真因
なぜ居場所ではなく「学び場」が必要か
不登校を選択した子の学びについての課題感を質問すると、次のような答えが返ってきました。 「居場所は傷ついた子が、不安を刺激されずにいられる場所です。それも大事だけれど、その子が自分を受け入れている訳ではありません。安心安全は大前提だけれど、自分の手持ちではどうにもならないこと、もやもやするものをこちらがおく。すると、何とかしなければならない状況に置かれた子どもたちは、いつの間にか無防備になって、自分をポッと外に出します。そのときに周りが関心を持つことが大事。それが学び場です」(井本先生) 学年ごとにカリキュラムを立てて、どの子にも一律の学びを提供する学校の機能にまるっきり意味がないとは思いませんが、一方で、そこに息苦しさを感じながらも毎日我慢して学校に通っている子どもたちがたくさんいることも事実です。 いもいもに通うある子どもは学校に行きたくない理由を、「学校では、先生にやりなさいって言われたこと以外やっちゃいけないから」と言っていたとか。学ぶ場所なのに、学びを通して自分を封じ込められているのです。 しかし、中には、いもいもに通うようになってから、学校も楽しくなったという子どももいるそうです。井本先生は何度も「ありのままの自分」という言葉を使っていましたが、もしかしたらありのままの自分でいられる場所があることで心のコップが満たされ、ゆとりができたからなのかもしれません。 今回、自分で考えることに熱中する時間を心から楽しんでいる子どもたちの様子を見ていて、学校の中にもそんな時間が少しでもあれば、もう少し楽しい場所になるのかもしれないなと思いました。
学校と併用しながら通うことも可能
デイクラスは、「いもいも思考力教室」「数理思考力教室」「森の教室」「原っぱ教室」があり、単体でもいいし、それらを自由に組み合わせて通うこともできます。 平日昼間のクラスなので、不登校を選択して毎日フリースクールのように通う子もいますが、「週に2日はいもいもで学び、あとの日は学校」というように、自分の興味関心に従って自由にいもいもと学校を組み合わせて自分の学びをカスタマイズするなど、新しい学び方を選択することが可能です。私は、これが新しいと思いました。 今 、東京都ではフリースクール等利用者助成支援事業を行っており、月額2万円を上限に給付を受けることができます。保護者が直接学校と話をする必要がありますが、東京都ではほとんどの場合、フリースクールやオルタナティブスクールに通うことが、学校の出席扱いになっています。学校に通いながら、週に1日から数日間、いもいものような場所に通うことで、その日その日で自由に学びの場を選択する、新しい学びの形が可能になってきているのです。 井本先生は、以前私が主催しているお母さんのための学び場でも授業をしていただいたことがあるのですが、長い間の実践を通して、子どもたちの「やってみたい!」という気持ちを育てることが教育であると確信していると言います。 私もそれが子育てで最も必要なことだと思っているので、うれしくなりました。一方で、それは子どもたちにはその力があると信じることです。これってシンプルだけれど、大人のあり方が問われます。 いもいもには大人の思考力教室もあります。この記事を読まれて共感された方は、「自分で考えることがどんどん楽しくなる授業」を体験してみてはいかがでしょうか。 (注記のない写真:すべて中曽根氏撮影)
執筆:教育ジャーナリスト 中曽根陽子・東洋経済education × ICT編集部