「今考えているかどうかだけに焦点を当てて授業をする」…神奈川御三家の元・教師が不登校の子に「学び場」をつくった真因
学べば学ぶほど自分であることがうれしくなっていく
しかし、一般的に、多くの親や教師は結果を見てできたかできなかったかで評価して、プロセスを見ようとしません。でも、実はそのプロセスこそが「学び」にほかならないのです。 「できる・できない」ではなく一人ひとりの解答までのプロセスを先生がちゃんと見ていけば、子どもたちの学びも変わる。問題が解けても、生徒たちはもっと別のやり方がないのか、別解を探すようになる。やがて、井本先生のそんな授業が評判になり、全国から見学者が絶えないカリスマ数学教師と呼ばれるようになっていきました。 そしてもう1つ。今の指導につながる経験が、児童養護施設での学習ボランティアでした。希望する生徒を連れて毎週施設に通う中で、栄光の生徒たちが勉強に苦手意識を持つ施設の子どもに、優しく丁寧に教えようとすればするほど、子どもは勉強を嫌がり距離ができていく。 それは、できないことに焦点を当てられ続けるから。この体験から井本先生は、子どもが考えようとしているプロセスにちゃんと気づいて、寄り添うだけでいい。そうすれば、子どもは、学べば学ぶほど、自分であることがどんどんうれしくなっていくという確信を持つようになりました。
思考力とは「自分の手持ちで何とかする」こと
やがて縁あって、「いもいも」の原型となる思考力教室を開催。それが口コミで広がり「いもいも」として正式にスタート。 その後、才能ある若手講師たちが次々と関わることになり、表現コミュニケーション教室や数理パズル教室などの新しい教室が生まれ、200名を超える子どもたちに通ってもらうまでに大きくなり、やがて活動は、自然の中で本質的な学びを体得する「森の教室」へと広がっていきました。 この4月から栄光学園非常勤講師を辞めて「いもいも」に専念することとなった井本先生。現在は中高時代の同級生の土屋敦氏と共に、合同会社の共同代表として「いもいも」を率いています。 そして、今回見学した授業を担当していたのが、古谷正晶さんと三戸健也さん。三戸さんは井本先生の元教え子。元々教員志望で、大学生時代から「いもいも」でアルバイトをするうちに、0から自分が面白いと思ったことを教材にして授業をつくっていくことができる喜びを実感し、大学卒業と同時に「いもいも」の社員になりました。 古谷さんは栄光学園の元同僚です。コロナ禍に、世の中がこんな状況になっているのに、カリキュラムをこなすために通常の授業をやり続けることに疑問を持ち、徐々に「いもいも」の活動にシフトし、今ではやはり社員として授業づくりを行っています。 その授業づくりに関して、古谷さんはこう言います。 「いわゆる教科書的な学習は、先人たちの知恵を学び、手持ちを増やすことが中心です。もちろん、これもとても大切なことですが、僕たちのアプローチは違います。『自分の手持ちで何とかする』ことを思考力と呼び、そんな思考力に特化した授業をしています。例えば今日の授業でも、言葉を探す中で見えていなかったものが見える瞬間がある。そのときにその子が出てくるんです。自分の手持ちで、自分の方法で、共に教室にいる仲間と影響し合いながら、本当の意味での『考える』ということを楽しむ、そんな授業づくりを考えています」