アジアも「IS vs.アルカイダ」宣伝競争の舞台に イスラム過激派のいま
アルカイダ系の揺れ戻しでテロ激化
ISは南アジアや東南アジアだけでなく、イスラム過激派の取り締まりが厳しい中央アジアでも浸透し始めています。この地域からは2014年以降、約2000人がシリアに渡ったとみられます。このうち、2015年7月にウズベキスタン・イスラム運動(IMU)はISへの忠誠を表明。もともとIMUもはやりタリバンやアルカイダに忠誠を誓い、締め付けの厳しい本国ではなく、主にパキスタンやアフガニスタンで活動してきましたが、やはりISに「鞍替え」したといえます。 ところが、2016年6月、IMUからタリバンとアルカイダに忠誠を誓う一派が離脱。このように一つの組織がISへの支持・忠誠をめぐって分裂することはアフリカなどでもみられますが、アジアではタリバンや、その系列のパキスタン・タリバン運動(TTP)でも確認されています。ここから、少なくともアジアにおいて、ISが一方通行で勢力を伸ばしているわけでないといえます。 ただし、それは裏を返せば、それだけIS系とアルカイダ系の「宣伝競争」が激しくなることをも予測させます。つまり、今回のバングラデシュのように、それまでテロ事件が比較的少なかったアジアの国でも、中東やヨーロッパと同様、二つのイスラム過激派の勢力争いが激しくなり、それにつれてメディア露出の高いテロ事件が今後さらに増えることが見込まれるのです。アジア諸国にとってISの拡散は、それ自体だけでなく、イスラム過激派同士の勢力争いをも促すことで、これまでにない脅威になったといえるでしょう。
------------------------------------------------------ ■六辻彰二(むつじ・しょうじ) 国際政治学者。博士(国際関係)。アフリカをメインフィールドに、幅広く国際政治を分析。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、東京女子大学などで教鞭をとる。著書に『世界の独裁者』(幻冬社)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『対立からわかる! 最新世界情勢』(成美堂出版)。その他、論文多数。Yahoo! ニュース個人オーサー。個人ウェブサイト