7年ぶりの挑戦 第3部 大分/下 周りの支え、感謝胸に /大分
ザー、ザー。小気味いい音をたてながら、選手たちがトンボを使って大分高校のグラウンドをならしていく。使っているトンボは、酒井吾大武(あとむ)選手(1年)の父で、大工の忠大さん(44)が作った特注品だ。 「それなら私が」。今年2月の野球部保護者会会議で「野球部のトンボが壊れかけている」との話題が出ると、忠大さんがこう名乗り出た。野球部が困っているなら--という思いからだったが、大工といえどトンボを作った経験はない。ただ、どうせ作るならいいものをと考え、試行錯誤を続けた。最初はスギで作ったが、スギだと軽すぎて土をならす部分がはねてしまった。このため、スギを柄の部分だけとし、土をならす部分は比重が重くて丈夫なヒノキを使用することにした。悩んだのはそれだけではない。土をならす部分の角度だ。使いやすく、ならしやすい角度を求め、吾大武選手のほか、他の選手にも使い勝手を聞いてもらい、調整を続けた。 仕事の合間に作っていると、仲間の大工も「センバツに行く大分のためなら」と手伝ってくれた。そして計30本のトンボがプレゼントされた。 トンボと同時に「マウンドの土を突き固める器具」を依頼された。これには悩まされたという。そのような器具の存在自体を知らなかった。インターネットで調べ、柄の先に土を固めるための重しを付けた「フィールドハンマー」というものを発見。これをベースに作ることとし、より使いやすいよう、柄を2本にして重しを挟み込んだ。柄を持ちながら力を入れて足で重しを踏み込み、より固めやすくなる。足立駿主将(2年)は「マウンド整備が格段に楽になった」と話す。 部員からも評判の忠大さんの器具。忠大さんは「センバツに出場するんだし、いい器具を使わないと」と笑顔を見せた。 ◇ ◇ 大分は中高一貫。中・高切れ目のない野球指導を目指し、取り組んでいるのが大分中野球部の岩崎久則監督(50)。以前は中学と高校で野球部間の交流はなかったが、5年前から連携するようになった。野球技術はもちろんだが、元プロ野球選手の岩崎さんが特に大事にしているのは「野球に対する姿勢」だ。 「彼は夕食が終わっても一人、黙々と練習していた」。所属していたオリックス・ブルーウェーブ(現オリックス・バファローズ)で1年後輩だったイチロー選手について、よく取り上げる。誰に何を言われようとも、野球に真剣に打ち込む姿勢が大事だ--。一流選手のエピソードを語り、その姿勢を伝えてきた。その教え通り野球に打ち込んできた部員たちに、岩崎監督は「甲子園を楽しんでこい」とエールを送る。 多様な人に支えられ、つかんだ大舞台。選手たちは、感謝を胸に大分の新しい歴史を作る。 =おわり(この企画は田畠広景、白川徹が担当しました)