《なぜ?》小泉今日子と小林聡美がただ「団地で暮らす」ドラマが中国人に求められている…今「おばさん」に注目が集まっている理由とは
昨今、ドラマ『団地のふたり』(NHK)をはじめ、中高年の女性を描いたドラマや映画が人気であり、またXなどでは定期的に、中高年の「おばさん」が主人公の作品を待望する声が散見される。しかし、なぜ今「おばさん」の物語が女性を中心に人を惹きつけているのだろうか。 【写真】この記事の写真を見る(6枚)
『団地のふたり』が中国の人々に人気の理由
『団地のふたり』は、中国でも人気を集めつつあるという(※)。中国はもともと競争が激しく、日本に来る留学生は「ゆるさ」を求めてやってくるのだということを、NHKの『クローズアップ現代』「なぜ急増?“ガチ中華”新時代の日中関係に迫る」(2022年10月19日放送)で特集しているときに知った。中国では、競争社会に抵抗する人々のことを指す「寝そべり族」といった言葉が流行したこともある。『団地のふたり』には、「ゆるさ」が「癒し」になる性質が確かにあるだろう。 大学の非常勤講師をしているノエチ(小泉今日子)と、売れないイラストレーターのなっちゃん(小林聡美)は、お互いに同じ団地にある「実家」で暮らしつつ、夜ご飯はいつもなっちゃんの家で一緒に食べている。ふたりは、一時は結婚していたり、パートナーがいたこともあったが、結局別れて団地に帰ってきたのである。 このふたり、ドラマ『すいか』(2003年)でも、信用金庫でお昼を一緒に食べる同僚を演じていただけに、息があっている。しかも、ことあるごとに昭和の歌謡曲を歌いだしたり、団地の住人に頼まれて網戸の張り替えに繰り出したりと、コミカルなシーンも自然で、まるで自分の周りにいる友人みたいに親近感が持ててしまって、そんな日常観を見るのも毎週の楽しみであった。 その上でこのドラマには、うっすらとした人生の中の「小さな失敗」がいくつも描かれる。ノエチは子どもの頃から頭がよく、「末は博士か大臣か」と言われていたが、ノエチの母親はそうはなれなかったと思っている。しかしノエチは実は博士号を取っているので、その夢はかなっているのだが、教授などにはなかなかなれず、一時は非常勤の職すら失ってしまった。 なっちゃんも子どもの頃から絵を描くのが好きで、イラストレーターにはなったものの、仕事の依頼はほとんどなく、今は不用品をネットのフリマで売ってしのいでいる。それは、国際ロマンス詐欺に遭ってしまった疑いのある福田さん(名取裕子)をはじめ、団地に暮らすほかの年配のご婦人方も同じである。 ノエチたちが住む団地とて、建設当初は鉄筋コンクリートで作られた最先端の夢の住まいであったが、老朽化で建て替え計画が進んでいた。しかし決定直前で建設の計画は白紙になって、ノエチとなっちゃんが、そのまま団地での暮らしを続けるところでドラマは終わる。 こうした、「人生は思うままにはいかないが、それでものほほんと生きていく」というところが、このドラマの最大の魅力に思える。 現実的に明るい見通しの立たない中で、必ずしも最適解と言えない状況でも心穏やかに生きる人々を見ていると、追い立てられるような気持ちにならないで済む。それが、『団地のふたり』が中国の人々にも人気の所以だろう。 その上、中高年の女性なら、誰もが思うままにいかない「失敗」のひとつやふたつは経験しているものである。その「失敗」にどう立ち向かうかという視点で見ると、ほかの中年女性のドラマや映画にも、同様の魅力が見えてくる。