「メガネの子が増えた」のはスマホが原因ではない、「外遊び」と「子どもの視力」の驚くべき関係
■「目は脳の一部」という認識を持ってほしい 窪田:今、高濱先生は「心身」とおっしゃいましたが、実は「目は脳の一部」なんです。目という組織は、脳の一部が飛び出してむき出しになっている中枢神経の一部で、身体の中で最も血流量が多い臓器は目の網膜といわれています。 つまり、目にいいということは、脳にもいいといえると思います。目の健康は、脳や心身の発達にも影響を与えているわけです。 高濱:今、多くの有識者の方々が子どもの外遊びを推奨するようになりました。医学面においても推奨されるというのは、外遊びの大切さを長年唱えてきた私たちにとって喜ばしいことですね。
窪田:「子どもの近視が増えている」と警鐘を鳴らすと、必ず「スマートフォンやタブレットの見過ぎだからでしょう」と指摘されます。しかし実は、スマホやタブレットが子どもたちの近視の原因であるというエビデンスは存在しません。 これまでも1990年代後半からパソコンが、2000年代後半にスマートフォンが急速に普及するタイミングがありましたが、近視人口が増加するスピードは一定で変わっていませんでした。したがって、「低年齢でスマホを持ち始めたから近視率が上がった」と結論付けるのは短絡的だと思います。
窪田:ただ、過去に一度だけ近視が急増したタイミングがあるのです。それは新型コロナウイルスが流行した2020~2022年頃です。 この時期は外出自粛が求められたので、室内に閉じこもっている時間が必然的に長くなりました。そのことが、子どもの近視を加速させたといわれています。つまり、屋外で過ごさないことが目によくないのです。 ■「外出自粛」時代の育児スタイルを続けていないか 高濱:確かに、コロナ禍で親子が室内で一緒にずっと過ごさないといけない状況が続き、子どもにスマホやタブレットを渡すことで時間をやり過ごす親が非常に増えました。
窪田:外出自粛が解除されても、なかなかその育児スタイルから抜け出せていないのかもしれませんね。室内という快適な空間で何気なく動画を見せているという状況は、親としては心休まるかもしれませんが、実は子どもにとっては身体的ダメージが大きいことは認識していただきたいですね。 今から45年前にあたる1979年度の文部科学省の調査では視力が1.0未満の小学生は17.9%でした。当時の小学生が今、中年になり、緑内障などの眼科疾患にかかりやすい年代に差し掛かっています。近視有病率が高くなった今の子どもたちが大人になったときの「目」を、眼科医としてとても心配しています。
高濱:いやあ、それは本当に心配ですね。子どもたちと関わる人間として教育の現場から変えられることに取り組んでいきたいですね。 窪田:住居や教育施設など、日本の子どもたちが置かれた環境の中でも実践可能な「近視予防」の取り組みを高濱先生と引き続き考えていけたらと思います。 (構成:石原聖子)
窪田 良 :医師、医学博士、窪田製薬ホールディングスCEO/高濱 正伸 :花まる学習会代表