ミケーレによる「ヴァレンティノ」初のランウェイショーを考察
ショーの後にミケーレが語った「人生」について
ショーの後には記者会見が行われ、ミケーレは40分間にわたってジャーナリストたちの質問に答え、自身のクリエイションについて語った。彼は、就任初日からヴァレンティノのアーカイヴルームを訪れ、"探偵のように"隈なくアーカイヴを探り、今回は特に1960年代から80年代までを参照したと明かした。中でも、4つの異なる色合いの白を使った1968年のオールホワイトコレクションや、イタリアの風習を変えるほどの影響力を持った1970年代の黄金時代が、大きなインスピレーション源になったという。 会見でミケーレが繰り返し口にしたのは、「人生」という言葉だった。ミケーレは、「(ヴァレンティノ・ガラヴァーニは)ファッション界のゲイとして、自分の人生をエレガントに、そして自信を持って表現した最初の一人でした」と説明した。そして、「アーカイヴには、彼自身の人生に由来しないものは何一つなかった」とし、「(ヴァレンティノにおいて)彼は"働いている"という感覚ではなく、ただ自分の人生を生きているだけだったのでは」と考察。ヴァレンティノは、創設者の人生が服に密接しているブランドであり、その強烈な感覚を再び生み出すためには、ミケーレ自身もまた、ありのままに自身の人生を反映させる必要がある。 装飾主義のマキシマリストとして、ミケーレが提示する非実用性の価値は、今日のファッションの風向きを変えるだろうか? ファッションとしての新しさの提案ではなく、懐古的ともいえるミケーレのコレクションはゲームチェンジャーとは言い難いが、静かに波紋を広げることにはなりそうだ。 ラグジュアリーファッション全体の成長も考慮する必要はあるが、グッチ在籍時にミケーレは売上を3倍も伸ばしたという。そして現在のヴァレンティノは、グッチの9分の1ほどの売上高と言われている。ミケーレが「グッチ」を離れたのは、業績の停滞が理由のようだが、実際、ミケーレのファンは多くいるはず。グッチとヴァレンティノの経済規模の大きな差を踏まえると、今回の大胆な路線変更が既存のヴァレンティノの顧客を離れさせてしまったとしても、ブランドとしては大幅な業績アップが見込めるのではないか。 派手ではあるもののショッキングなアイデアはなく、「ミケーレは大人しくなったのか?」と言われると、それはわからない。ミケーレが事実上のクリエイティブ・ディレクターとしてデビューしたグッチ2015年秋冬コレクションを振り返ると、ミケーレのエッセンスは感じられながらも、そのデザインは比較的シンプルなものだった。なので今はまだ、彼が方向性を定めている、トーンセットを行なっている段階なのではないかとも予想できる。 そして、今回欠けていたエッセンスといえば、メンズウェアのデザインコードが挙げられる。おそらく、ミケーレが今回参照した1960年代から1980年代にかけてのヴァレンティノに、十分なメンズウェアのリファレンスがなかったことに起因し、ここにはミケーレの息吹を吹き込む余地が大いにある。そして、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの時代にあった"贅"の感覚と、ヴァレンティノに漂う"ある種の軽薄さ"は、来年1月に控えた彼の初のクチュールショーで見られるのかもしれない。