心理学の研究でわかった「人の嘘は簡単にはバレない」…それでも嘘を見抜くのに「有効な方法」
---------- 心理学の研究で、「人はウソを見抜けない」ことがわかってきた。ところが人には、「自分の内心はほかの人から見えている」と実際以上に思い込む、「透明性の錯誤」というバイアスがあるそう。そんな「透明性の錯誤」について、著書『リーダーのための【最新】認知バイアスの科学』がある社会心理学者の藤田政博氏が解説する。 ---------- 【写真】「運がいい人」が判断基準にしている「たった1つのこと」
「目をそらしたら嘘をついている」は本当か?
心理学の研究で、嘘を見抜くという一分野があるのですが、じつは研究成果としては、すでに「嘘は見抜けない」という方向で多くの研究の結果が示されています。 「嘘はこのようにしたら見抜ける」ということで、世間でよく言われることに、「目をそらしたら嘘をついている」「身体を右に/左に傾けたら嘘をついている」などと言ったことがありますが、嘘をつくかどうかと、このような身体的動作には関連がないようです。 人は嘘をついているときと、本当のことを言っているときで異なる行動をするかについて、158個の手がかりと嘘をつく行動の関係を調べた研究をまとめて分析した結果(メタ分析)、多くの行動と嘘のあいだには、まったく関係がないか、弱い関係しか見られませんでした。 この研究で、嘘をついているかどうかと関連が見られたのは、言葉や声がすぐに出てこないこと、内容の矛盾・内容の詳細がないこと、言葉や声が曖昧か、全体的に緊張しているか、声の緊張度・話の論理的構造が少ないこと、説得性が少ないこと、声のピッチ、否定的な発言内容、言葉や声が他人事のようであることといったものでした。 こういった指標は、全体的に話している人を観察してわかることで、特定の動作があればすぐに嘘をついているとは言えないことがわかります。
他人から内心が見えることはほとんどない
では、こういった手がかりから嘘を見抜けるのでしょうか。 107個の研究をまとめて分析した研究では、専門家が嘘を見抜く確率は55.91%、一般の人が嘘を見抜く確率は54.27%で、50%と変わらないと評価されています。つまり、コイントスをして嘘かどうかをいうのと変わらないという意味で、嘘を見抜けないのです。 また、144の研究を統合した分析では、嘘をついた人の性別や年齢、嘘をつく動機づけの強さ、独白か面接か相互作用か、対面か否か、強い感情があるかどうか、話の内容が感情か事実か、といった要因で嘘の見抜きやすさに差は見られませんでした。 それなのに、なぜか「自分の内心はほかの人から見えている」と実際以上に思い込む認知バイアスを「透明性の錯誤」と言います。実際にはこのように、他人から内心が見えることはほとんどありませんし、嘘も見抜けません。 もしかすると、リーダーであれば、人間関係をスムーズにいかせるために、小さな嘘をつく必要があるかもしれません。そのときに透明性の錯誤があると、内心、目の前の人にバレているように感じられるかもしれません。 しかし、実際には、人間はほかの人の嘘を見抜くことはなかなかできません。 だからといって、どんどん嘘をつくことは推奨できません。倫理的な観点だけでなく、実用上の理由としては、嘘をついた後でさまざまな話の内容を矛盾なく保っておくことは難しいからです。