「宇宙は加速しながら膨張している」という「観測結果」に世界が騒然…その事実から導き出される「ダークエネルギーの正体」とは
ダークエネルギーの正体
このダークエネルギーの正体の最も有力な候補は、「真空のエネルギー」と呼ばれるものです。これは一体何でしょうか? それを理解するために、身の回りからものを取り去っていくことを考えてみましょう。机を取り去り、ソファーを取り去り、家を取り去り、そしてあなた自身も地球も太陽もダークマターも全てのものを取り去ったとしましょう。この状態が「真空」です。 一般相対性理論によれば、この真空の状態もエネルギーを持つことができるのです。言ってみれば、全てのものを取り去った後に空間自体が持つエネルギーです。この真空のエネルギーは、正の値も負の値も取ることができます。ゼロであることも可能です。そして、もし値が正であればそれは宇宙を膨らませるように働き、負であれば縮ませるように働くのです。このことを直観的に説明するのはなかなか困難です。ここでは、アインシュタイン方程式と呼ばれる一般相対性理論の式を解くと、そのような結果が得られると理解しておきましょう。 そういうわけで、もし膨張宇宙が正の真空エネルギーを持ち、かつその影響が物質による引力の効果より大きければ、宇宙の膨張は加速していくことになります。反対に、もし真空のエネルギーが負であれば、宇宙の膨張は徐々に減速していき、遂には収縮に転じることになります。そして、最終的には宇宙は一点に向けて潰れていきます。より正確には、あらゆる2点間の距離がゼロに近づいていくことになります。
真空のエネルギー VS 物質の平均エネルギー
この考えに立てば、パールマター、シュミット、リースらの観測は、現在の宇宙の真空のエネルギーが正であり、かつその効果が物質同士の引力を凌駕しているのを見つけたことになるのです。実際、膨張がどの程度加速しているかを測ることにより、真空のエネルギーの大きさ──より正確には体積あたりの真空のエネルギー、つまり真空のエネルギー密度──を求めることができます。そしてそれによれば、 真空のエネルギー密度は約6.0×10⁻³⁰g/cm3 であり、それは(図1‒1の右のように見たときの) 物質の平均エネルギー密度2.7×10⁻³⁰g/cm3 より2倍ほど大きいということになります。 真空のエネルギー密度という考えの良いところは、ダークエネルギーの正体として得体の知れない変なものを導入しなくてもよいというところです。真空のエネルギーは一般相対性理論に元から存在するものであり、その宇宙膨張への影響もアインシュタイン方程式を解くことにより正確に計算できます。 厳密に言えば、真空のエネルギーの効果はアインシュタインが最初に書いた式では考慮されていませんでしたが、現代的な観点から言えば真空のエネルギーは一般相対性理論の一部です。ただし第5章で触れますが、測られた真空のエネルギー密度の大きさ(物質のエネルギー密度の約2倍)は、新たな理論的謎を生むことになります。 * * * さらに続きとなる記事<「鳩の糞」のせいかもしれないと思っていたのにまさかの「ノーベル賞」…「偶然」見つけた「今も」届く「生まれたての宇宙の声」!>では、初期の宇宙について詳しく解説しています。
野村 泰紀(バークレー理論物理学センター長・カリフォルニア大学バークレー校教授)