「宇宙は加速しながら膨張している」という「観測結果」に世界が騒然…その事実から導き出される「ダークエネルギーの正体」とは
宇宙はなぜ加速膨張するのか
1998年、ソール・パールマター(カリフォルニア大学バークレー校およびローレンス・バークレー国立研究所)、ブライアン・シュミット(オーストラリア国立大学)、アダム・リース(ジョンズホプキンス大学および宇宙望遠鏡科学研究所)らに率いられた二つのチームが、衝撃的な観測結果を発表しました。宇宙は加速膨張をしている、つまり膨張のスピードが速まっているというのです。 これがなぜ衝撃的なのでしょうか? 重力は、万有引力と呼ばれることからもわかるように、物質に必ず引力として働きます。すなわち、異なる物質間を互いに引きつけ合う力として作用するのです。これは、図1‒2からもわかるように、宇宙の膨張(2点間が離れていく現象)を遅くするように働くことを意味します。つまり、宇宙膨張は重力の効果で遅くなっていくと考えられるのです。
これまでの常識を覆す世紀の大発見
このことは、ダークマターを考慮に入れても変わりません。ダークマターはその正体はわからないものの、物質です。ですから、ダークマターに働く重力も、もちろん引力です。このように一般に重力はどんな物質に対しても引力として働くことを考えれば、宇宙にどんな物質がどれだけ存在したとしても、その膨張は必ず遅くなっていくはずなのです。 ところが、パールマター、シュミット、リースらの観測の結果は反対だったのです! 筆者はこの結果が発表されたとき大学院生でしたが、その衝撃ははっきりと覚えています。第一報を得たときには半信半疑の研究者も多数いました。しかし時が経つにつれて新たなデータも加わり、宇宙が加速膨張していることは疑いようがなくなっていきました。この業績により、パールマター、シュミット、リースは2011年のノーベル物理学賞、2015年の基礎物理学ブレイクスルー賞を受けることとなりました。 ちなみに現在では、宇宙の加速膨張はパールマターらの観測とは全く異なる方法を用いた、独立した観測によっても確かめられています。 この宇宙が加速膨張しているという事実は、私たちの宇宙には何か物質以外のものが満ちていることを意味しています。この「何か」は、加速膨張の源、すなわち重力のもとで実質的に斥力として働くものでなければなりません。この未知のエネルギー源(重力はエネルギーに応答する)は、その正体を特定せず集合的にダークエネルギー(日本語では暗黒エネルギー)と呼ばれています。 これはよく混乱を生む点でもあるのですが、ここでの議論でもわかるようにダークマターとダークエネルギーは、その名称が少し似ているにもかかわらず全く別のものです。ダークマターは、標準模型に含まれる粒子ではないものの、物質であることには変わりありません。一方で、ダークエネルギーは物質ですらないのです。