「支給される下着の30~35%が中古の下着」「常に満員」児童養護施設の厳しい状況…新たな挑戦で状況は変わるか
■企業からも予想以上の反応 動き出したところ、まず個人による寄付が予想以上の手応えがあり、総額で1億円を超えるところまで来ているという。また法人についても、SOMPOグループやサイボウズ、ZOZOなど、このプロジェクトの主旨に賛同し、参画する企業が出てきている。 例えば、サイボウズは実籾パークサイドハウスに設けられるバスケットボールコートのネーミングライツを3300万円で獲得。同社では青野慶久社長が個人的に寄付をしていたが、活動に共感したこともあって「企業としてより大きな形で関わりたい」と、名乗りをあげた。
福祉楽団がもともとサイボウズの製品を使っていることから付き合いがあるほか、サイボウズ自体も福岡県北九州市で行われている複合型社会福祉施設建設に寄付するなど、福祉の分野に力を入れているという素地もあったという。 ライフサポート寄付は、実籾パークサイドハウスがオープンしてから、当たり前の暮らしを実現・継続していくために使われる。例えば、前述した新品の下着・肌着の提供や、部活動や学習塾に参加できる環境、中高生のスマホの所持、大学への進学や海外留学など――現行の環境では充実が難しいことを、この資金を利用して実現しようとしている。
■未来に向けた「実験的な試み」 児童福祉にまつわる分野はどちらかというと保守的であり、進取の取り組みに積極的なわけではない。そんな中にあって実籾パークサイドハウスは、かなり実験的な試みを取り込んでいるプロジェクトといえる。 「僕自身も手がけたことがない領域ですから、行っていく過程で遭遇する成功も失敗も含め、未来に向けた質の向上に生かしていきたいと考えています」という飯田さん。 だが、児童福祉分野は人材不足が取り沙汰されており、施設スタッフの確保だけでなく、スタッフのケアや維持も課題となってくる。加えて、子どもたちに当たり前の暮らしを提供するには、国の補助金だけでなく、寄付の拡大など資金調達も重要になるだろう。
飯田さんによると、一時保護所に子どもがいられる期間は最大2カ月なうえ、つねにパンク状態にある。飯田さんが手がけるような養護施設のニーズは高く、行政からの増設への要望は強い。とはいえ、上述の通り、立地や資金、スタッフの確保などそう簡単にできるものではない。 高齢化が進む日本では高齢者が置かれている状況についての情報は多くあるが、虐待などを受けた子どもの暮らしや児童養護環境などについてはあまり知られていない。より多くの子が当たり前に暮らせるようになるには、まず社会の認識を深める必要があるのではないか。
川島 蓉子 :ジャーナリスト