日本の少子化対策では止められない、人口減少のメカニズム
鎌田 健司(明治大学 政治経済学部 専任講師) 2023年の初旬に話題となった「異次元の少子化対策」や「こども家庭庁」の発足など、少子高齢化に伴う人口減少への対策が、現政権の重要な政策課題として掲げられています。なぜ人口減少が生じるのか、少子化の主要因は何なのか。人口の規模・構造・変化を属性別に観察することによって分析する「人口学」をもとに解説します。 ◇2040~60年代には、自然減少で毎年100万人ずつ減少していく見込み 日本の人口は、2008年の1億2,809万人をピークに、減少傾向にあります。その経緯を振り返ると、多産多死、多産少死、少産少死、少産多死に推移する「人口転換」による長期的な流れが見えてきます。 人類史において長らく続いてきた多産多死の時代は、産業革命が起こって以降、医療技術の発達や栄養水準の向上などを受け、多産少死の段階に入ります。なかでも劇的に改善されたのが、子どもの死亡率です。それまで5人が産まれても成人するのはせいぜい2~3人だったところ、ほとんどの子どもが生き残れるようになりました。加えて産業構造が転換し、子どもを労働力としない働き方が一般化すると、少産少死へ移行していきます。 少子化とは、出生率が「人口置換水準」、つまり人口が減少するほどの水準で持続することをいいます。その水準とは、15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計した「合計特殊出生率」が約2.1であることを指し、これは一人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子どもの数に相当します。 日本では、1870年頃に多産少死の時代となり、戦前戦後には4~5あった合計特殊出生率が、1960年頃には2にまで低下しました。第2次ベビーブーム後の1974年には、ついに人口置換水準以下となり、長期的な少子化の時代へと入ります。その結果、人口構造が高齢化し、2007年以降は、高齢者の死亡数が出生数よりも多くなって人口が減るという自然減少による構造的な人口減少社会に突入しました。 現在は多産少死の時代に生まれた世代が加齢し、人口の高齢化が加速しています。さらに医療や公衆衛生の発展によって、およそ90%の人が65歳、つまり高齢者になれる時代に突入しました。その結果、1950年には5%に満たなかった人口における65歳以上の割合が、28%以上にまで上っており、今後この割合はより一層高まっていきます。国立社会保障・人口問題研究所の全国の将来推計人口(令和5年推計)では、少産多死が進むことで、2040~60年代には毎年100万人の人口が自然減少(出生数<死亡数)によって減っていくことが示されています。 人口の変化を考えるうえで、出生数と死亡数の差を示す自然増減以外に、人口移動による増減、つまり社会増減も重要なファクターになります。社会増減は、1990年以降、出入国管理及び難民認定法改正(1989年)による日系3世まで就労可能にしたことや技能実習制度の導入(1993年)などもあって、入国数から出国数を引いた外国人の入国超過数は概ね増加傾向にあります。コロナ禍により一時的に減少したものの、2022年は17.5万人の純増にまで戻ってきました。とはいえ近年の入国者は、技能実習生や留学生といった若い年齢かつ短期間で帰国する層が多いため、増加する外国人人口がそのまま将来的な日本の人口のストックにはなりづらいと考えられます。