日本の少子化対策では止められない、人口減少のメカニズム
◇自然減少による人口減少は、即座に食い止めることはできない このような少子化の状況に対し、日本政府は1990年代から、保育サービスの拡充や男女共同参画社会の実現のための対策などを講じてきましたが、2005年に合計特殊出生率が過去最低となる1.26にまで低下するなど、なかなか結果に結び付きませんでした。一連の対策はいずれも婚姻や出産を直接的に促すようなものではなかったため、少子化の傾向を押しとどめる力が限定的だったのかもしれません。そもそも結婚や出生力に直接的に介入するような取り組みについては、1994年の国際人口開発会議、通称「カイロ会議」で、女性の健康と生殖に関する自己決定権を認めるという「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」に国際的な合意がなされて以降は、主に先進工業国では避けられるようになっています。 かつてはお見合いや仕事関係の出会いなど、親族や上司が結婚を取り持つようなことで「皆婚」社会が実現されてきました。しかし、今では職場で結婚を促すような発言をすれば問題になり、親族の紹介などのしがらみを避けて都市部に移動して暮らす人も出てきています。多様な価値観や行動を尊重しながら、人口減少が進むなかで持続可能な地域社会を維持していかなければならないという難題に、政府や自治体は向き合っていく必要があります。 加えて、少子化が解消すれば、人口減少がすぐに止まるのかといえば、そうではありません。 人口構造には、長期的な慣性があり、たとえ出生率が急激に上昇したとしても、子どもを産める年齢の女性人口が増えるにはしばらくの時間が必要になりますし、これら女性人口が増えないことには出生数は十分に増加しません。したがって、自然減少による人口減少は、即座にとどめることができないのです。今年8月末に出た全国の将来推計人口の報告書では、2020年時点で出生率が人口置換水準に達したとしても、人口減少が止まるのは2080~2090年(死亡率一定・国際人口移動ゼロの場合)。その時点での日本の人口は、人口高齢化を伴いながら今より24%ほど減少していると考えられています。 現在の少子化は、社会状況の変化はあるにしろ、私たち一人ひとりの選択によって生まれた結果だともいえます。少子化状況が解消しても人口減少が止まらないのであれば、人口減少を前提とした取り組みがまず必要です。全世代を対象とした持続可能な社会保障政策、地域包括ケアシステムの構築、コンパクトシティプラスネットワークなど、政府レベルではすでに検討をスタートしています。私たちは今、いかに効率的に人口減少に対処するかが問われています。
鎌田 健司(明治大学 政治経済学部 専任講師)