「THU JAPAN 2023」早川千絵監督 演技を通して見えてくる、“演出”の面白さ【CINEMORE ACADEMY Vol.33】
“演出”とは何か
Q:監督になってから俳優のワークショップの依頼が増えたそうですが、最初はどのような形で始められたのでしょうか。 早川:私はお芝居の勉強をしたことがありませんし、自分でもお芝居は出来ません。演出の勉強もしたことがないので、私が俳優に教えられることは何も無いなと。当初はずっとお断りしていました。ただ、『PLAN 75』(22)を撮っている中で、気付いたことがいくつかあって、それを伝えることは出来るのではないかと。それで恐る恐る引き受けたのが最初です。 俳優のワークショップって、エチュードという即興をやってもらったり、監督が用意した脚本を渡してその中の1シーンをやってもらい、そこに監督が演出をつけるようなことが多いと聞いたのですが、それだと何だかつまらないような気がしました。もっとお互いの想像力を刺激して、やりながら気づきがあるようなものをやりたいなと。ちょっと遊び心があって俳優さんも楽しめることを出来ないかなと思って考えたのが、今回のようなワークショプの始まりでした。実際にやるまではどうなるか分からなかったのですが、やってみたら最初から面白かった。 ワークショップでは、“サブテキスト”という概念を実践したいと思っていました。通常、脚本にはセリフがありますが、そのセリフを言っている人が文字通りの感情を持っているとは限らない。「あなたのことが大好きです」というセリフがあったとしても、「あなたのことを憎んでいる」という設定の場合もある。そうなると、そのセリフが持っている言葉が全く意味をなさなくなる。その裏にある感情を想像するようなトレーニングをしたいと思ったんです。「悲しい」という言葉だから、悲しそうに言うのではなく、そこを一度真っさらにして、意味のない言葉でどれだけ感情を語れるか、どれだけその人間を表現できるかというのを試してみたかった。こうやって言葉で言うとちょっとわかりづらいのですが、実際にワークショップでやってみるとそれが体感できるんです。同じ言葉でも違うように聞こえる瞬間が毎回あって、奇跡的にハマる瞬間が出ることもある。やっていて本当に楽しいですね。 Q:映画監督は俳優ではありませんが、“演出とは何か”がこのワークショップを通じて少しだけわかったような気がします。 早川:私は他の人の現場を見たことがありませんし、師匠がいるわけでもない。本当に自己流で、“演出”というものが何か分からないまま手探りで映画を撮っていました。ただ、一度映画を撮った中で、“演出”ってすごく楽しいんだと気づいたような感覚がありました。誰かに教えてもらったわけではないのですが、自分の中で良い悪いが分かる部分があったんです。自分でもその理由は分からなかったのですが、少し納得したのは、とある演出家の人が言った「監督は見るプロなんだよ」という言葉でした。確かに、自分はお芝居は出来ないけれど、良し悪しを判断出来る目を持っているかもしれない。それをどれだけ良いと思う方向に形を慣らしていくか、それが自分にとっての“演出”なのかなと。
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