北朝鮮の非核化へのプロセス カギ握る「検証」作業
6月の「米朝首脳会談」で、アメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が「完全な非核化」で合意しましたが、具体的な非核化へ向けた詳細の議論はこれからです。 【写真】「完全な非核化」「CVID」実現にはどんなプロセスが必要か? 元外交官で元軍縮代表部大使を務めた美根慶樹氏は、非核化までのプロセスにおいては、核施設の「解体」や核兵器の「廃棄」に関する各国政府の「申告」が正しいかを「検証」する作業が非常に重要だと指摘します。これまでに非核化が実行された事例としては、リビアや南アフリカが挙げられます。ただ非核化の検証は容易ではないといいます。ここでは南アのパターンに触れながら、検証とはどんな作業でどんな困難があり得るのか、美根氏に寄稿してもらいました。
すべての核分裂物質や核施設が査察対象
「完全な非核化」の具体的工程を詰めるために、米朝両国は高官協議を行うこととなっています。 非核化のプロセスの中でも、特に「検証」作業がカギになります。 「完全な非核化」に必要な「検証」とは、政府が申告したことと調査(査察)をした結果に齟齬がないこと、つまり、政府の申告に虚偽やその他の誤りがないことを確かめることです。どの国でも、核兵器を保有しない国でも、「核分裂性物質」は厳格に管理されているはずですが、申告が正しく行われるとは限りません。
南アフリカ共和国(南ア)はかつて核兵器を保有していましたが、1989年に当時のデクラーク大統領がその廃棄を決定し、国際原子力機関(IAEA)に対し、核兵器は6発、製造中であったものが1発と申告しました。この申告に対し、IAEAが検証しなければならなかったのは、申告が正しいこと、すなわち8発目はなかったということでした。南アの国土は日本の約3.2倍ありますが、どこにも8発目は隠されていないことを確かめなければならなかったのです。 しかし、IAEAは南アの国土を掘り返して調べたわけではありません。ウラン235(U235)およびそれから生成されるプルトニウムという核分裂性物質が正確に把握され、申告されているかを検証したのです。 U235は採掘されたウラン鉱の中に約0.7%しかなく、これでは薄すぎて核分裂が継続的に起こらないので「濃縮」されます。90%以上に濃縮されたものは兵器になります。濃縮度がもっと低く20%以下のものは、原子力発電や医療など平和目的に使用されます。 使用済みの核燃料が再処理されるとプルトニウムが生成され、濃縮されたU235と同様、兵器として利用可能な状態になります。最後に残った廃棄物は保管されますが、それにもU235が残っています。原発の廃棄物はその典型的な例です。 IAEAはこれら一連の過程にある核分裂性物質をすべて査察の対象とします。濃度のいかんを問わず、兵器用も平和目的用も査察の対象とするのです。査察が行われる場所は、核分裂性物質が存在するすべての施設です。 査察はU235が人間の手に入った時から最後の段階まで行われるので、「ゆりかごから墓場まで」とも言われます。