「一度野球を諦めた」潜在能力社会人トップ153キロ齋藤に11球団調査書
12球団どこでもOK
Hondaでは、さらなるフォーム改造に取り組んだ。ワインドアップからセットポジションへ変更したことで、課題としていた制球に安定感が生まれた。さらに16種類あるというチーム独自のフォーム矯正を兼ねた体幹トレーニングにより齋藤のスタイルが固まってきた。 すると、社会人デビュー戦となった昨年3月のスポニチ大会での鷺宮製作所戦で4安打完封。準優勝となった、この大会で新人賞を受賞すると、夏の都市対抗の2回戦となる東海REX戦では、2点ビハインドの場面で登板。2回を投げて1失点したが、計30球中、10球が150キロ台をマーク。最速152キロを都市対抗デビューの檜舞台で叩き出した。 「最速が出て成長を実感した」という。 そして、ドラフト解禁年となる今年6月の都市対抗の南関東、第1代表決定戦の日本通運戦では、4回まで、3者連続三振を含むパーフェクトピッチング。結局、7回を3安打9奪三振の無失点に抑え、チームを3年ぶりに栄えある第1代表へと導いた。 ネット裏にいたパ・リーグの某球団の幹部スカウトは「ストライクゾーンで勝負ができて、かつ球に勢いがあり、打者が嫌がる投球ができている」と称えた。 都市対抗の初戦となるJR四国戦には、日米13球団のスカウト陣が集結した。チームは惜敗したが、先発の齋藤は、5回を投げ、4安打5奪三振1失点(自責0)の内容だった。この試合を4人態勢で視察に訪れていたヤクルト・橿渕聡スカウトグループデスクは、「都市対抗初戦の難しさか、硬く見えた。元々、制球力で勝負するタイプではないが、悪いなりに粘りの投球ができていた。大舞台で150キロを計測するなど、球の強さが垣間見えた」と、評価していた。 遅咲きの右腕に自身2度目のドラフトが間近に迫った。 「行けるなら上位でとは思っていますけど…今回縛りはなく、12球団OKです。けど、いまだに全然実感湧かなくて…」 11球団から調査書が届き、複数球団が上位指名を検討している。目標にしているのは、世代のトップランナーの大谷翔平である。 「身体使いがキレイで強い球が投げられる、見習いたい。僕も球速はまだまだ伸びると思うので、ここから成長していきたい」。今なお発展途上の齋藤は、日本人投手4人目となる160キロの夢を見る。 無限の可能性を秘める23歳の大型右腕は、運命の瞬間を待ちわびている──。 (文責・徳吉刑事/スポーツライター)