DAZN元年にサポーターを激怒させたクルクル問題。開幕節の配信事故を乗り越え、JリーグとDAZNが築いた信頼関係
村井が重視する、スピードと「天日干し」の発想
当のラシュトンも「あのタイミングで謝罪会見をしたのは、結果として正しい選択だったと思います」と、この時の謝罪会見をポジティブに受け止めていた。 「なぜなら、Jリーグとの信頼関係が強まったし、ファン・サポーターとの関係性も深まったからです。もちろん、起こってしまったことについては、弁解の余地もありません。それでも、われわれが見せた率直さと誠実さは、評価していただけたと思います」 かくして2017年シーズンは、ピッチ外でも波乱に満ちた幕開けとなった。開幕節での配信事故は、DAZNにとってもJリーグにとっても、痛手となったのは間違いない。けれども、その後のファン・サポーターの受け止めは、私の予想とは異なる展開を見せた。謝罪会見以降、DAZNに対するファン・サポーターのリアクションが、非難から応援モードへと切り替わっていったのである。 これは、サッカーファン特有のメンタリティに起因するものと考えられよう。情けない試合を観せられたら、その場ではブーイングするものの、マイクラブを見捨てたりはしない。むしろ結果を出せないからこそ「応援しよう」という気分にもなる。 これと関連していえば、Jリーグファンの多くが、開幕に合わせてDAZNに加入し、視聴のための準備を整えていたこともわかってきた。もちろん、準備に手間取った人もいただろう。それでも、SNSや周囲の反応を見る限り「何をしたらいいのかさっぱりわからない」という人は、極めて少数派だったように思われた。 Jリーグのファン・サポーターが、高齢化していることは間違いない。それでも、試合中継を楽しむための努力を厭いとわず、情報収集と創意工夫を怠おこたらない。そうした事実が明らかになったのは、個人的にも嬉しい発見であり、Jリーグにとっても安心材料となった。Jリーグを愛する、ファン・サポーターの多くは、やがてDAZNという「黒船」を受け入れ、Jリーグを楽しむための「仲間」として、10年スパンで伴走していくこととなる。 それを促したのが、村井が重視する、スピードと「天日干し」の発想であったことは間違いない。配信事故の直後に会見開催を決定したこと。そこで真摯な謝罪と説明が行われ、すべてを明らかにしたこと。そして何より、事故直後での「絶対に逃げては駄目だ」という覚悟が、JリーグとDAZNの危機を救うこととなった。 (本記事は集英社インターナショナル刊の書籍『異端のチェアマン』より一部転載) <了>