DAZN元年にサポーターを激怒させたクルクル問題。開幕節の配信事故を乗り越え、JリーグとDAZNが築いた信頼関係
「ここは早急に謝罪会見を開催するほかない」
コアなファンやサポーターにとり、地上波での中継が減少する中、Jリーグを10 年間にわたって支えてくれたスカパー!は、恩人であり戦友でもあった。それだけに「Jリーグは目先のカネに目が眩んで外資と手を組み、恩義あるスカパー!を捨てた」と考える層は、一定数存在した。また、そこまでいかなくとも「スカパー!のままでも良かったのに」と思いつつ、仕方なくDAZNに切り替えた層は多かったはずだ。 ここで対応を間違えれば、DAZNのみならずJリーグへの不信感にもつながりかねない。また、OTTの普及という計画にも、ネガティブな影響を与えるのは必至であった。 「ここは早急に謝罪会見を開催するほかない」 それが、村井の判断であった。問題は、DAZN側がどう反応するか――。 「欧米系の企業は、自分たちのミスを認めたがらない、あるいは法廷闘争に持ち込もうとする。そうした先入観は、私自身も持っていました。けれども、ここでDAZNがどういった態度を示すか、日本中が固唾を飲んで注目しているわけです」 大阪から東京に戻ったラシュトンは、すぐさま村井とのミーティングの場を設けた。その時の村井の言葉を、彼は今でも鮮明に覚えている。 「村井さんから、こう言われました。『私たちのパートナーシップが今、試されている。同じ過ちを繰り返すことは許されない。この事態に対して、われわれは一緒に立ち向かっていく必要がある』とね」 その具体案が、早急な会見の開催。この考えにラシュトンも同意する。 「伝統的な日本企業であれば、まずはプレスリリースを出して、騒ぎが収まってから会見するのが常だと聞いていました。けれども、村井さんは『なるべく早くメディアの前に出て、オープンに話をしよう』と提案してくれたんです。われわれも、それに同意しました」
DAZN側に起こったテクニカルな問題を謝罪
都内某所でDAZNの謝罪会見が行われたのは、事故から4日後の3月2日のこと。私が案内に気づいたのは当日だったので、すべての予定をキャンセルして現場に向かった。それほど広くない会場には、ぎっしりとメディアが詰めかけており、あらためて本件への関心の高さを痛感する。 登壇者は村井とラシュトンのほかに、DAZNから開発部長のウォーレン・レー、そしてコンテンツ制作本部長の水野重理。全員が黒いスーツとダーク系のネクタイという、まさに日本企業独特の謝罪会見スタイルである。最初に登壇したのは、チェアマンの村井だった。 「JリーグとDAZNは、ひとつのチームとして連携しておりました。それぞれの役割に関しましては、スタジアムの中継と制作、そして制作データをDAZNにお渡しするところまでがJリーグの役割。それを配信用のデータに変換して、さまざまなデバイスに最適化する形で視聴者の皆さまへ配信するのがDAZNの役割でございました」 村井によれば、スタジアムでの制作とデータの受け渡しのところでは、トラブルはなかったという。問題が起こったのは、それ以降のプロセス。つまりDAZN側に、テクニカルな問題があったことを明らかにした。続いて、DAZN側からラシュトンとレーが登壇。村井の言葉を継ぐ形で、ラシュトンが語り始める。 「皆さま、本日はわれわれのメディアブリーフィングに来てくださり、ありがとうございました。先週末のDAZNプラットフォームの不具合によって、ご迷惑をおかけした、すべてのファン、ステークホルダー、そしてパートナーの皆さんに今一度、心より深くお詫び申し上げます」 そしてラシュトンとレーは、さながら日本人のように深々と頭を下げた。その間、およそ10秒。私は、これほど長く頭を垂れる外国人というものを、初めて見た。周囲にいたメディア関係者も、同じ思いだったはずだ。こうした潔い態度が、会見会場の雰囲気を一気に前向きなものへと変えていく。