DAZN元年にサポーターを激怒させたクルクル問題。開幕節の配信事故を乗り越え、JリーグとDAZNが築いた信頼関係
昨年30周年の節目を迎えたJリーグ。その組織面や経営面でのガバナンスは、村井満チェアマン時代の2014年から2022年までの8年間で劇的に強化された。その結果、切迫した財務面の問題は解消され、コロナ禍のリーグ崩壊の危機を乗り越え、Jリーグのパブリックイメージそのものが大きく変わることとなった。そこで本稿では書籍『異端のチェアマン』の抜粋を通して、リーグ崩壊の危機に立ち向かった第5代Jリーグチェアマン・村井満の組織改革に迫る。今回はDAZN元年(2017年)に起こった悲喜こもごもについて。 (文=宇都宮徹壱、写真=松岡健三郎/アフロ)
JリーグとDAZNにとっての苦悩の日々始まり
この年のJ2開幕日となる2017年2月26日、村井は試合会場の視察ではなく、JFAハウスでDAZN中継のチェックの対象となったのは、この日唯一のJ1のカード、ガンバ大阪対ヴァンフォーレ甲府。キックオフは17時3分だった。TVとタブレットとスマートフォン、大小さまざまな画面を並べて「さあ、視るぞ」となった時、黒い画面上に浮かび上がるのは、クルクル回る渦巻き状の円のみ。市立吹田サッカースタジアムの熱狂が、映し出される気配はまったくない。その状態は、キックオフ時間が過ぎても続いた。 「JFAハウスのWi-Fiに問題があるのかと、最初は思ったんです。ところが、どうやらそうではないと。そのうち、各方面から『視聴できない』という連絡が入って、さーっと血の気が引くのを感じましたね」 JFAハウスで村井たちが情報収集を始めた同時刻、ラシュトンやサドラーと一緒に吹田スタジアムにいた小西孝生も異変を察知していた。「日本人は放送事故に厳しいから、これは困ったことになったぞと思いましたね」とは2016年にDAZNとの交渉に当たった中心人物のひとりである小西当人の弁である。さらに、ニンジニアスタジアムでキックオフした愛媛FC対ツエーゲン金沢でも、トラブルがあったことが判明。70分を過ぎてから、中継画像が止まったり、同じシーンが何度もループしたり、不安定な状態が続いたのちに視聴不能となってしまった。 この瞬間から、JリーグとDAZNにとっての苦悩の日々が始まる。 事故が起こった2月26日夕刻から翌27日にかけて、ツイッター(現・X)上のタイムラインは、DAZNに対するJリーグファンの怨嗟と憤懣に満ちた声で埋め尽くされていた。その中でも目立っていたのが「スカパー!時代のほうが良かった」という意見。いくつかピックアップしよう。 《もし去年同様の条件でスカパーがJリーグパック出してくれていたら/間違いなくDAZNよりスカパー!を選ぶ/ストレスフルな粗悪品より/多少高価でもノンストレスなモノを選びたい/残念なのはその選択肢がない事だ》 《開幕戦が日曜の17時アウェイ開催も腹立つし、DAZNマネーにつられて長年Jリーグに貢献してきて定着してたスカパー!からあっさりDAZNに切り替える無能さにめっちゃ腹立つ。ここ10年で1番腹立つ。》 《高額な放映権もJリーグとスカパー!やDAZNとのアレコレも日本サッカーの未来もネットの配信技術もサーバーやインフラ整備がどうこうも、そんな事はどーでもいい。/ファンが試合を観る事が出来なかった/ただ一点、これだけが問題だ》