衝撃の不幸が次々と…朝ドラ『虎に翼』の「玉音放送なき終戦」と「夫の死」が意味するもの
第9週は寅子のターニングポイント
間違いなく最大のターニングポイントと言っていいだろう。今週、朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)の第9週「男は度胸、女は愛嬌?」が放送され、東京大空襲と終戦、主人公の兄、夫、父が立て続けに命を落とすという衝撃のシーンが次々に描かれた。 【一覧】テレビ局「本当は使いたくないタレント」…ワースト1位は意外な大御所…! 驚くべきは、そのスピード感。まず5月27日(月)の第41話は、1945年3月の東京大空襲からはじまり、その数十秒後には同年7月になって花江(森田望智)の両親が亡くなったことがナレーションで明かされ、さらに主人公・寅子(伊藤沙莉)の父・直言(岡部たかし)が花江の夫・直道(上川周作)の戦死を伝えた。ここまでわずか3分。主題歌をはさんで物語が再開するとすでに終戦していて、寅子が疎開先から東京に戻るシーンに変わっていた。 続く28日(火)放送の第42話では、終戦から年が明けて1946年になり、寅子は家族のために弁護士に戻ろうとするが働き口がなく、秋になったころ夫・優三(仲野太賀)の戦病死が発覚。29日(水)の第43話では、父・直言が栄養失調と肺炎で亡くなったことがナレーションで明かされた。 制作サイドは、なぜ「空襲シーンがほとんどなく、朝ドラに付き物の玉音放送はカット。あっさり戦後になり、やっと結ばれた夫もあっさり死んでしまう」という超速展開を選んだのか。そこを掘り下げていくと、第9週がターニングポイントであり、本当に『虎に翼』で描いていきたいことが見えてくる。
今後の物語につながる“3つの兆し”
振り返ると、寅子は14日(火)放送の第7週・第32話で念願の弁護士になった。しかし、わずか7話後の第8週・第39話で、妊娠などを理由に事務所を辞め、六法全書を片付けるなど、弁護士の道を断念。 また、寅子は第7週・第35話で優三と結婚するが、わずか5話後の第8週・第40話で優三は召集令状によって出征し、さらに2話後の第9週・第42話で死んでしまった。 この「弁護士になるも翌週の放送で断念」「優三と結婚するも翌週に死別」は寅子にとって重要なことである一方で、今後の物語への“振り”に過ぎないからこそ、これほどのスピード感で描かれたのだろう。しかもその第7週から第9週にかけて描かれてきたのは、「弁護士になるも翌週の放送で断念」「優三と結婚するも翌週に死別」だけではなく、今後につながりそうな“3つの兆し”があった。 その“3つの兆し”とは主に「貧困による一家の危機」「弁護士という仕事への違和感」「女性や子どもの窮状」。これらに超速展開の理由と今後の物語を占うヒントが潜んでいる。 まず「貧困による一家の危機」は、戦後の猪爪家が、小魚をごちそうとみなして食べ、着物を売ってお金を作り、マッチ作りなどの内職に勤しむなど、ギリギリの生活を送るシーンが小刻みにはさまれている。さらに、岡山の学校に通っていた優秀な弟・直明(三山凌輝)が、家族のために帝大進学を断念して働くことを決意したこともその1つだろう。 31日(金)放送の第9週・第45話で寅子は再び法の仕事を目指すことを決意したが、それは家族のためだった。弁護士になったあとは、「断念した仲間たちの想い」「自分がくじけたら女性が法曹界に入る道が途絶えてしまう」という重い荷物を背負っていたが、「いったん断念したことでそれを下ろすことができ、純粋に家族のために立ち上がる」というスタンスに変わっている。