害虫イネカメムシの被害実態は? 8.2万粒を手作業で独自調査
農研機構が示した手順で調査
特報班のイネカメムシ不稔率調査は、信ぴょう性を担保するため、農研機構に示された手順を守った。 まず取り掛かったのがサンプルの採取。同機構は、統計的に十分な精度を保つため「10アールの田で少なくとも400本の稲穂が必要」だという。農家の許可を得て、イネカメムシが見つかった田10アールから約500本の稲穂を採取させてもらった。 稲穂をまとめると、30キロ入り米袋2袋になった。ずっしり詰まった袋を特報班の記者2人が1袋ずつ抱え、群馬県館林市から電車を乗り継ぎ、1時間半かけて、東京・秋葉原の本紙本社に持ち帰った。 次に手を付けたのが脱穀。コンバインを使用すると不稔ははじかれるため、同害虫の被害を正確に把握できない。記者が稲穂を1本ずつ手に取り、茶わんやコップの縁で、もみをこそぎ落として脱穀することにした。 約500本の脱穀にかかった時間は延べ6時間半。途中、「終わりが見えない」と意識が遠くなることもあったが、最後まで作業を続けた。結果、もみの数は約8万2100粒に上った。水を張ったバケツにもみを入れ、浮いてきたら中身が入っていない不稔だ。バケツに入れると、多数のもみが浮いていた。 次は同害虫の被害を特定する作業。「吸汁されたもみの付け根には、唾液が固まった痕がある」(同機構)という。化学薬品の「酸性フクシン水溶液」を0・01%に薄め、もみを30分ほど浸すと、吸汁痕に反応して赤く染まるということで、業者から取り寄せた。
肉眼で確認できず 研究機関の協力仰ぐ
所定の手順を終え、ルーペを使ってもみを見回し、吸汁痕を探した。ここで思わぬ事態が起きる。吸汁痕が小さ過ぎ、肉眼での判断ができなかったのだ。 途方に暮れる中、ある自治体の試験研究機関に相談すると「協力しましょう」と申し出てくれた。酸性フクシン液で処理済みのもみ100粒持ち込み、記者が顕微鏡を借りて1粒ずつ確認した。研究機関の担当者の「もみの基部に赤く、ツンととがっている部分があるはず」という説明通りの吸汁痕があった。 作業を繰り返していくと、同じ状態のもみが複数出てきた。最終的に確認できたのは17粒。「不稔率17%」の答えにたどり着いた。 同機構によると、稲穂をランダムに採取したなら、調査数が100粒でも1000粒でも、調査回数が1回でも複数回でも不稔率は大きくは変わらないという。特報班は採取時、10アールの水田内を無作為に歩き回りながら刈り取っていた。同機構が言う「ランダム採取」の要件は満たしており、「不稔率17%」の信ぴょう性は一定に確保できたと判断した。