「これでは何も終わらない」…松本人志が「性加害報道」を語らなかった単独インタビューに弁護士が感じたこと
異論のない世界へ「説明責任が死語となる時代の始まりに」
それなのに「裁判が終わったから一件落着」でいいのか。松本氏の取り下げで裁判は煙のように消えたが、その後には「性加害疑惑」が変わらず残っている。裁判となった2人の女性以外にも多くの性加害疑惑が報じられているのに、裁判が「煙幕」になり、その終了とともに本来の「性加害疑惑」も消えてはならない。 さらに裁判中、松本氏をめぐる新たな疑惑が生まれた。週刊文春は7月、松本氏側による探偵を使った女性の尾行や「出廷妨害工作」を報じた。こうした女性への「圧力」疑惑についても、松本氏は「一言も」説明していない。 そうした中、松本氏は厳しい質問も飛ぶ記者会見ではなく、一人の記者のインタビューで「復帰宣言」した。しかし、裁判が消えてなくなったことで、現在の松本氏は昨年末の文春報道の時点の「性加害疑惑を突きつけられている人」という立場に戻ったはずだ。それなのに疑惑に答えず、復帰することが許されるのだろうか。 テレビなどのマスメディアでは、性加害疑惑がある人を説明なく起用することは無理だろう。しかし、松本氏は別の世界を選んだ。ネット上に独自のチャンネルを作るというのだ。 今、表現の世界は一つじゃない。SNS社会は自分が見たい世界だけを見せる無数のコミュニティーを生んだ。松本氏は自分のチャンネルのログイン画面の向こう側にある「異論がない世界」で、熱心なファンに囲まれて生きていくのかもしれない。それは「説明責任」や「社会的責任」が死語となる時代の始まりのように感じる。 でも、このままでいいのか。それは今年、兵庫県知事選挙をはじめさまざまなニュースで繰り返し感じた疑問だった。このままでは社会の基盤となる大切なものが失われていく。松本氏のインタビュー記事を読みながら、そんな危惧を覚えた。 □西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。今年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。
西脇亨輔