「ブラック企業」なぜ社会問題化?/背景と改善策は
「ブラック企業」の社会問題化を受け、厚生労働省は9月を集中取り締まり月間とし、監督指導を行っています。1日に行われた「電話無料相談」には「月150時間を超える残業をしているが手当がつかない。休日も休めない」「売上が悪いと上司に叩かれる」など、過酷な長時間労働や残業代の未払い、パワハラなどについての若者の悩みが寄せられました。ブラック企業はなぜ最近、社会問題化してきたのか。どんな改善策があるのか。経営コンサルタントとして労務問題や労働紛争に携わる三菱UFJリサーチ&コンサルティングの神野俊和氏に聞きました。 ―――――そもそもブラック企業の定義とは? 端的に言えば「過酷な労働をさせる」会社。具体的な定義としては、「長時間の労働」「長時間の拘束」、それに「低賃金」。長時間労働でも、やりがいがあって給料が増えるなら我慢できるが、そうでない場合は厳しい。「残業代が出ない」などの問題もある。最近は「パワハラ」も要素になっている。 ―――――働く上でやりがいや満足度は大事ですよね 「ブラック企業」かどうかは相対的なもので、けっして絶対的ではない。だから自分が満足できる仕事なら問題はない。ブラック企業ランキングみたいなものも出ているが、どう感じるかは人それぞれだと考える。 ―――――ブラック企業的なものは昔からあったのでは? 昔からあったが、昔はブラックな「業界」だった。それが最近は会社名で出てくるようになった。どこの業界、会社でも似たり寄ったりだったりする。ワタミさんなんかは業界大手で目立つから言われる部分もある。 ―――――ではなぜ最近、社会問題化してきたのか? 例えば居酒屋チェーンなどでも、昔はバイトから入って、実績を積んでから社員になるパターンが主流だった。つまりその業界やその会社の実情を十分に知って入社する人が多かった。でも昨今の就職難で、新卒の大学生がポンと入るケースが増えている。それで土日もないし深夜まで働いて、残業をしても固定残業内で総支給額が増えなかったり、となると、こんな状況とは知らなかった、ということになる。 ―――――就職難も背景にあるんですね 学生さんはみんな就職したいから必死。希望の職種ではなくても、正社員になれればいいということで入社してみたらイメージと「ギャップ」があった、ということになる。あと不景気。「失われた20年」じゃないが、景気の低迷が長く続いた影響で、企業が人件費を削るしかなくなってしまったので。 ―――――「ブラック企業」問題の改善策は? 企業側としても、新入社員にすぐ辞められるのは困る。実際、3年以内に辞めていく若者は多い。事前に「うちはこういう業界でこういう会社です」という風に、仕事の厳しさも含めて学生さんにきちんと説明することだと思う。それを隠すと「ブラック企業」だと言われることになる。なので、インターンとか体験入社とかはとても有効。学生のうちに実際に働いてみて、できるだけ会社や業界の雰囲気を知って、その上で就職すればギャップは減らせる。学生が実際に働いてみる「場」があるといいのでは。 私の知っている鉄鋼系の企業では「うちはこんなにハードです」と予め説明したが、それでもちゃんと入社する人はいるし、確かに厳しい環境かもしれないが「ブラック企業」とは社員から呼ばれていない。 ―――――実際に会社の雰囲気を知るのは大事かもしれないですね その通り。私の意見では、「有期契約」は一概に悪い面ばかりではないと思っていて、例えば、中途入社の人とは、まず「2カ月以内」の契約を推奨している。それでしばらく働いてみて、仕事の内容や職場の雰囲気を知った上で、お互いに良ければ続けるというやり方。最初から正社員で入ってしまうと、もしこんな会社とは知らなかった、という場合に辞めると、自己都合退職の扱いになってしまう。新卒の場合でも、有期契約で仕事をしばらく体験した上で決められるようにするのも手だ。 ―――――9月から集中取り締まりが始まっています こうした取り組みは、2010年に労働基準法が改正されてから、過酷な長時間労働の撲滅のために行われてきた。ただ今回、いつもと違うのは「パワハラ」を対象に入れてきている点。現状ではパワハラを定義する法律もない状態なのだが、それでも入れてきたということは、それだけパワハラが問題になっているからだ。 * * * 神野氏は、ブラック企業かどうかは相対的なものだと言います。企業側は厳しい情報も隠さず伝え、学生側はイメージだけではなく、それらも踏まえた上で判断することが大切です。事前に仕事を体験できるような環境整備と、企業・学生双方の意識の変革が必要なのでしょう。 ■神野俊和(かんの・としかず) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 コンサルティング・国際事業本部 チーフコンサルタント。中小企業診断士/特定社会保険労務士/消費生活アドバイザー。1987年セントラル経営センター(現MURC)に入社、各種労働問題・労使関係解決、人事システム構築、労務管理研修、行政対応を中心とした実践的なコンサルティングに従事。