60歳サラリーマン「退職金1,800万円もらえるぞ!」→妻と2人「世界一周旅行」のつもりが「近場の温泉旅行」にランクダウンの切実事情
いよいよ迎える定年退職の日。長かったようで短かった会社員生活。自分自身に「おつかれさま」と伝えたい…。「頑張ったごほうびに配偶者と2人、世界一周旅行に行っちゃおうかな!」なんて思う方もいるかもしれませんが、どうかちょっと立ち止まってください。老後資金の重要性について、経済評論家の塚崎公義氏が解説します。 年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
「退職金=ごほうび」の認識が危険な理由
サラリーマンの多くは、退職日に退職金を受け取ります。厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によると、勤続35年以上で退職一時金のみの場合、大卒・大学院卒なら1,822万円との数字が出ています。 多くの人は、手にしたことのない金額を手にして気分が高揚することでしょう。会社が永年勤続の褒美として多額の金をくれたので、自分へのご褒美に何か買おう、長年支えてくれた配偶者への謝礼として世界一周の豪華客船ツアーに行こう、といったことを考える人もいるでしょう。 しかし、退職金は老後資金の大切な柱のひとつですから、あまり贅沢はせず、近場の温泉旅行くらいにしておきましょう。そして、ゆったりした気分で配偶者と老後の生活設計について語り合いましょう。その際に、なぜ世界一周ではなく温泉旅行になったのか、という点もしっかり説明しましょう。 退職金を褒美ではなく、社内預金の満期だと考えるとよいかと思います。「自分の給料は、本当はもっと高かったのだが、会社が強制的に天引きして社内預金していなのだ。それが満期になって戻ってきたのだ」と考えるのです。 意思が弱くて老後資金を貯められない自分のために、会社が積み立ててくれたのだ、と考えて会社の「親心」に感謝し、これからはしっかり自分で管理するのだ、と自分に誓うのです。そうすれば、気分の高揚も抑えられますし、贅沢をしようという気分も薄れるでしょう。
「金融資産が一気に増えた!」との認識もアブナイ理由
退職金が銀行に振り込まれると、急に金融資産が増えます。そして、内訳は銀行預金ばかりになります。そうなると、「少しは株式投資でもしよう」と思うかもしれません。 筆者は、「銀行預金はインフレに弱いリスク資産だから、老後資金は株式や外貨にも振り分けるべき」だと考えているので、そのこと自体には賛成です(拙稿 『恐ろしい…超高齢化・人手不足の日本〈インフレ時代〉到来は確実なのに。頭を切り替えられない人たちが被る「あまりに大きな損失」』 を参照)。 しかし、株式(あるいは株式投資信託)を一度に大量に買うことはお勧めできません。あとから振り返ると「運悪く株価が高い日だった」といったことになりかねないからです。毎月一定額の投資信託を積立投資しておけば、高いときも安いときも買うことになるので、大儲けは狙えませんが、大損のリスクは格段に小さくなるのです。 注意すべきは、退職金が振り込まれたことを預金残高で把握した銀行から投資信託の勧誘が来ることです。支店長室に招かれて支店長から投資信託を勧められたら、買ってしまうかもしれませんね。気分が高揚していて、株でも買おうかと思っていたときに、支店長に頭をさげられたのですから、さらに気分が高揚して買ってしまう人もいるでしょう。 あるいは、「せっかく支店長が頭を下げてくれたのに、断っては申し訳ない」と思って買ってしまう人もいるでしょう。でも、冷静に考えてみれば、そんな気遣いは不要だと気づくでしょう。支店長が頭をさげているのは、あなたに対してではありません。あなたの退職金に対してなのですから(笑)。