金融緩和の副作用よりも、もっと問題なのは金融機関の経営のまずさだった?
9月18、19日に開催された金融政策決定会合では、金融政策の「現状維持」が決定されました。 前回の7月31日会合で決定された金融政策の「弾力化」が正常化への第一歩であったとの解釈が浸透するなか、黒田日銀総裁は会見で「当分の間、現在のきわめて低い金利を維持する」とのコミットメントを再確認し、同措置が「出口戦略ではない」と強調しました。日銀は今後も「金融機関収益の圧迫」という副作用に配慮しつつ、大規模緩和の維持を続けるでしょう。
金融システムレポート発表とは?
ところで、日銀の金融政策決定会合が開催される1・3・4・6・7・9・10・12月会合のうち、4月と10月は金融システムレポートの発表時期と重なることから、最近ではその前後になると金融政策の副作用の議論が盛り上がる傾向にあります。金融システムレポートとは、日銀が貸出動向(≒金融仲介機能)、金融機関の収益等を包括的に分析し、金融面で異常がないかをチェックするための分析レポートです。 昨年秋は金融システムレポートで、低金利環境下における金融機関の収益性が分析されたこともあって、「リバーサルレート」が話題になり、日銀がそれを理由に金融政策の正常化に着手するかもしれないという思惑が生じました。今回も金融システムレポートで金融機関の低収益が分析され、それを理由に出口への議論が盛り上がる可能性があります。
金融機関の経営の“まずさ”を指摘
もっとも、過去の金融システムレポートでは、金融機関の低収益は(日銀による)低金利政策が直接的原因ではなく、本質的問題はオーバーバンキングであるといった趣旨の記載があります。金融システムレポートでは可住地面積あたりの金融機関店舗数が世界的に突出して多いことを指摘したうえ、人口減少が進む下で店舗網の拡大戦略を採用している金融機関の行動を問題視するなど、金融機関の経営戦略(のまずさ)に紙面を多く振り分けています。基本的見解として、金融政策の正常化で問題が解決するといった趣旨の記載はありません。 直近の金融システムレポートで最も強調されていたのは、貸出にあたって「リスク対比で適正なリターンを確保していない」という問題です。金融政策の副作用を巡る議論は「低金利→利鞘縮小」という単純な議論で纏められることがしばしばありますが、より本質的問題は「低金利→利鞘縮小」を回避すべく、金融機関が信用リスク(信用力の劣る企業に貸出先を拡大)を取りにいっているにもかかわらず、リスクに応じた適正な金利設定を行っていないことにあるとされています。すなわち、長引く低金利環境で金融機関の信用リスク管理が甘くなっているとの趣旨です。副作用に配慮すべく金融緩和の度合いを弱めるとの議論もありますが、金融システムレポートをみる限り、日銀内部ではそうした議論にはなっていません。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。