「“君”はどう生きるか」...なぜ作家・鴻上尚史は“君たち”ではなく、“君”と呼びかけたのか。多様性の時代に問われる“個”の生き方とは
いままで、「大切な人と深くつながるために」「いじめられている君へ」「親の期待に応えなくていい」など、10代に向けて多くのメッセージを発信してきた作家の鴻上尚史さんが「今の10代に贈る生きるヒント」を6月12日に刊行する。その書籍のタイトルは『君はどう生きるか』。昨年ジブリの映画でも話題になった90年近く前のベストセラーをもじったこのタイトル。なぜ「君たち」でなくて「君」なのか。そこには鴻上尚史の考える時代の大きな変化があった。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 『君はどう生きるか』(鴻上尚史著)より抜粋して、著者がいまを生きる10代に贈るメッセージを一部紹介する。 『君はどう生きるか』連載第1回
悩み、もがく十代の若者たち
「友だちとどうコミュニケーションをとったらいいか分からない」と悩んでいる男子中学生と知り合いました。「グループの中に自分の居場所がない」と悩んでいる女子高校生に相談されました。「自分の容姿に自信がない」と悩んでいる女子高校生にも、「なんのために生きるんだろう」と悩んでいる男子高校生にも会いました。 ぼくは彼ら、彼女らの話を聞きながら、一生懸命アドバイスしました。 ぼく自身、一番、心がゆれ動いたのは、十代の頃でした。不安になったり、すさんだり、投げやりになったり、怒ったり、絶望したりしました。
あのとき欲しかった「アドバイス」を本に
その時には、「本当に役に立つアドバイスをしてくれる大人」は、ぼくの周りにはいないと感じました。いえ、気持ちを変えて、本気で探したら、どこかにいたのかもしれません。でも、ぼくは「大人は意見を押しつけてくるだけの存在」と考えて、じっくりとは話し合いませんでした。 君が十代なら、心のどこかで「大人は信用できない」とか「大人は自分の意見を押しつけて、私の話をまったく聞かない」と思っているかもしれません。 やがてぼく自身が大人になりました。作家となり、『「空気」を読んでも従わない』や『孤独と不安のレッスン』、『ほがらか人生相談』などの本を出すようになって、十代の人たちからもアドバイスを求められるようになりました。 幸いなことに、アドバイスをした後、「楽になった」と何度か言われました。 その微笑んだ顔を見るうちに、十代の人たちがぶつかる問題に対して、まとまったアドバイスを一冊の本にしてみようと思いました。今までいろんな本に書いてきたことも含めて、決定版になればいいと思ったのです。 ベストセラーになった本に『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎)があります。とても素敵な本ですが、あの本との違いは「君たち」と「君」です。