SNSで拡散された安倍晋三元首相の「エンタメ力」 “スルーされない”ネット戦略とは?
安倍晋三元首相の長期政権の背景を分析するうえで、その“エンタメ感”は欠かすことのできない要素だ。政治学者の牧原出氏が、安倍元首相の“スルーされない”ネット戦略を読み解いた。 【画像】リオ五輪閉会式では安倍元首相がスーパーマリオ姿で登場 ◆◆◆
エンタメの世界を楽しむ姿が支持された
確かに、政治の世界と、娯楽やエンタメとは切っても切れない関係にある。だが、その中で安倍は、スポーツやゲームの腕を特に上げることもなく、また派閥運営の道具としてでもなく、エンタメの楽しみにひたすら興じていた。 外交の場でふと相手を和ませて、日本の国益に沿った方向付けを図ろうとする。あるいは、政治の駆け引きでは「ゲーム」のようにプレーしたりもした。 何よりも、そうした安倍の姿は、SNSで拡散するためには格好の素材となった。安倍政権は、Facebook、Instagram、Twitter(現X)を活用したが、そのネット戦略のおおもとは、エンタメ力ある首相である。首相自ら楽しむ姿が、多くの関心を集めたのである。SNSをよく使う政治家といっても、攻撃的な言説で炎上するか、事務的な活動報告がスルーされるかのどちらかである。SNSで「楽しんでみせる」姿を振りまけたのは、今なお宰相安倍だけと言えよう。
政治に持ち込まれるエンタメ
もっとも、「安倍一強」の政権を築く前の安倍には、そこまでのエンタメ力はなかった。第1次政権では消えた年金問題の処理に失敗して、国民からの信頼も失墜して参議院選挙で歴史的敗北を喫し、辞職した。当時の安倍は、元来「休日はもっぱら映画館」というくらい映画好きだと評された。『プラダを着た悪魔』を見たかったが、『犬神家の一族』を親族と見たという一面もあった(上杉隆『官邸崩壊』幻冬舎文庫、2011年)。これらは『ハウス・オブ・カード』や『ザ・クラウン』のように、およそ外交や政治の現場で効果的に話題として使えるものではない。 第1次政権崩壊後の雌伏の時期に、安倍は様々な反省をノートに記していた。その上に立って組織されたのが、第2次政権だった。改めてどう戦略を立てるかを考えていたと自ら語っているが、エンタメを政治に持ち込むことの意義にどこかで気づいていた節がある。