これはトヨタの勝利宣言だ…中国・欧米の「国策BEV」を尻目に開発続ける新型エンジンの中身
■トヨタの「勝利宣言」 トヨタの新型エンジンは、ハイブリッドシステムと組み合わせることを前提に開発されている。ハイブリッドであれば低速走行時はほとんど電気モーターに任せることができるし、強力な加速が必要な時は電気モーターのアシストが期待できる。 つまり、従来のICEのように高回転まで回る必要はないし、低速トルクも必要ない。もっぱら燃費効率のみを追求することができるのである。また小型軽量化にも成功しており、小型化はより空力性能の優れたスタイリングを採用することができるので、車体側の燃費性能向上にも貢献する。 今後、ICEの排ガス規制はさらに強化されるので、従来型エンジンで規制に対応させようとすると大幅な出力ダウンが避けられない。だが、新型エンジンは最初から規制対応を前提に設計されているため、今まで通りの出力が出せるという。さらに走行時における電気走行の割合も高まると発表されている。 つまりハイブリッドシステムとしての効率も向上しているはずだ。 従ってこの発表会は、事実上トヨタの勝利宣言のような発表会だったといえるだろう。 ■トヨタの覇権時代が当面続く 仮に、BEVが30%程度までシェアを伸ばしたとしても残りの70%はICEが搭載されたHEVやPHEVが主力となるはずだ。 合成燃料やバイオ燃料が普及すればBEVの普及はさらに限定的になるかもしれず、ICE搭載車の寿命は当初想定されたより遥かに長いかもしれない。この新型エンジンと新ハイブリッドシステムのアドバンテージは相当なものだろう。今でもHEV技術で世界を大きくリードしているのに、その差をさらに広げることは間違いない。 さらに、トヨタはBEVにも本気で取り組んでいる。再来年の2026年には150万台を生産する計画だが、その数字はテスラの2023年の販売台数である180万台には劣るものの、フォルクスワーゲングループ全体のBEV販売台数である77万台の2倍という台数規模である。 さらに、BEVが飛躍する鍵と思われる全固体電池に関して、トヨタはパナソニックに次ぐ世界第2位の特許数を誇っている(データ:特許庁)。 トヨタは将来BEVの時代が来ると予測しつつも、現状のリチウムイオン電池ではBEVの本格的普及は難しいと判断していたのであろう。総合的に考えると、トヨタ栄光の時代は当分続くと考えてよく、欧米メーカーは戦々恐々だろう。 ---------- 山崎 明(やまざき・あきら) マーケティング/ブランディングコンサルタント 1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターと旧型BMW 118dを愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。日本自動車ジャーナリスト協会会員。 ----------
マーケティング/ブランディングコンサルタント 山崎 明