廣瀬俊朗(ラグビー日本代表チームディレクター補佐)「人種も国籍も異なる集団の多様性は強みになる」
元ラグビー日本代表の廣瀬俊朗が語るリーダー論。厳しい勝負と競争の世界を生きるアスリートたちを勝利に導く指導者、キャプテン、それを陰でサポートするコーチから学べることは? 【写真を見る】ラグビー日本代表の名場面をチェック!
エディー・ジョーンズ「私が知る限り、最高のキャプテンだ」
世界的な名将であるエディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチから、「私が知る限り、最高のキャプテンだ」と称賛されるほどの統率力を発揮したのが、ラグビー元日本代表の廣瀬俊朗だ。 2012年、エディーが日本代表監督にはじめて就任したときにキャプテンに指名された廣瀬だったが、この人選に、ラグビーファンの間では驚きの声があがった。というのも、当時の廣瀬は4年ほど日本代表から外れていたからだ。しかもラグビー日本代表は多国籍軍。さまざまなバックグラウンドを持つ選手たちの集まりである。そんな個性派集団をどのようにまとめ、強い日本代表の礎を築いたのか。廣瀬がキャプテンに選ばれた当時を振り返ってもらおう。 「エディーさんはあの時、これまでの日本代表とは異なるレベルの高い目標を掲げました。新しいチームや文化を作るにあたって、自分には基盤を作る役割を求められていたように思います。いろいろなことを変えるときに、監督の言うことに従うだけでなく、自分なりに考えてチームをまとめられるところを期待されていたようです」 国籍も違えばラグビー観もばらばらの人たちの集まりを束ねるにあたって、何を大事にしていたのだろうか。 「国籍を問わず、人はみんな違うことが前提だと考えました。もうひとつ理解しなければいけないのが、異国にやって来て、日本代表でラグビーをやる外国籍選手のほうが大変な思いをしているということ。だから日本のやり方に従えというのではなく、彼らに寄り添う気持ちを大切にしました。そして、人種も国籍も異なる集団の多様性は強みになる。たとえば、フィジカルの強いトンガの選手がクラッシュして防御をぶち破る。陣形を崩した後は、几帳面で連動性に優れた日本人選手がボールを素早く、丁寧に動かす。すると、トンガ代表にはできない、日本代表ならではのラグビーが生まれます」 廣瀬がキャプテンを務めた日本代表は、2013年にウェールズ代表から歴史的な初勝利を挙げる。けれどもラグビーワールドカップを翌年に控えた2014年、廣瀬はキャプテンの任を解かれ、新キャプテンにはリーチ・マイケルが選ばれた。 「現実を受け止めるのに少し時間がかかりましたね。でも、そもそもこのチームの目的はどこにあるのか、ということを考えたんです。日本ラグビーの歴史を変えること、日本代表チームを憧れの存在にすることがこのチームの目的で、自分はそこに共感していました。だから、キャプテンだから頑張る、キャプテンを外されたから頑張れない、というのは違うなと考えるようになったんです」 キャプテンとしてではなく、ひとりの選手として参加した2015年のワールドカップ、南アフリカ戦の直前には、選手やOB、関係者など数百人のメッセージを集めた“モチベーションビデオ”を制作した。そこまでチームに貢献したいと考えた理由はどこにあったのだろうか。 「一番は、この仲間たちと最後にいい思いをしたいということ。試合で活躍する選手もいるし、メンバーから外れた選手もいます。でも、試合に出られない選手にも役割があるはずで、そこでの振る舞いが、多国籍軍と言われるこのチームの文化の礎になっていくと考えました。5年、10年というスパンで俯瞰すれば、一連の経験にも大きな意味があったわけです」