センバツ 野球の神様はいた 初の甲子園で誤審、異例の謝罪 県高野連から派遣 荒波宏則さん /静岡
◇励ましや称賛に救われ 審判の判定ミスと異例の謝罪が話題となった今春のセンバツ。「甲子園の魔物に襲われ、野球の神様に救われた」。静岡県高野連から派遣され、誤審してしまった二塁塁審の荒波宏則さん(44)はこう受け止める。試合後、携帯電話には審判仲間や知人から励ましのメッセージが約100件入った。経験を糧にもっと審判技術を向上させるつもりだ。【山田英之】 誤審があったのは1回戦の広陵―敦賀気比戦。四回裏無死一塁、広陵の送りバントの打球は、ファウル地域から不規則に弾んでフェア地域に入った。球審のフェアの判定に対して、二塁塁審の荒波さんはファウルの身ぶりをして一塁走者を止めてしまった。 「大舞台でやってしまった。人生終わりだ」。荒波さんの頭の中が真っ白になった。試合を担当する審判団4人が対応を協議した時、「すみません。ファウルと決めつけ走者を止めてしまいました」と正直にミスを認めた。尾崎泰輔球審は場内アナウンスで「私たちの間違い。大変申し訳ありません」と謝った。 尾崎球審に、荒波さんは感謝している。対応を協議した際、尾崎球審は詰問するのではなく、「何が起きたのか話してほしい」と穏やかに接してくれた。試合後の反省会でも「勇気を持ってミスを認めてくれた。荒波君にとってつらいことだと思ったが、4人の審判を代表して謝らせてもらった」と声をかけられた。 荒波さんは小学2年生から野球を始めた元高校球児。現在は島田市役所福祉課で働く。職場の先輩に誘われ、軟式野球の審判を始めてから、審判歴22年。夏の高校野球静岡大会でも審判を務める。 審判の奥深さを感じるようになり「いつか甲子園に」。高校生の頃に出場を果たせなかった夢舞台・阪神甲子園球場のグラウンドに、今回初めて立った。 塁審を担当した3試合のうち広陵―敦賀気比戦が初戦だった。二塁塁審の定位置からスタンドを見渡し「ついにこの日が来た」と感じた。「落ち着いていこう」「集中しよう」「ボールから目を離すな」と自分に言い聞かせるようにつぶやいた。甲子園の雰囲気にのまれないように。 ミスをした四回は「慣れてきて、心に隙(すき)ができたところを甲子園の魔物に襲われてしまった」。観客の視線が痛かった。でも携帯電話には審判仲間や職場の同僚から「自信を持って」などとメッセージが続々と届いていた。センバツを担当した他の審判たちからは「大丈夫か」「気にするな」と気遣われ、「気持ちを切らずに頑張っていたな」とねぎらわれた。 誤審の場面を撮影したある動画はネット上で13万回以上視聴され、コメントは300件を超えた。「ナイスジャッジ」「人として尊敬できる」と審判団の対応を称賛する意見が批判を大きく上回った。荒波さんに「甲子園には野球の神様もいる」と思わせてくれた。 今回の経験を大きな宝物と考えられるようになった。「まだ足りない所があると気づけた。勉強して技術を向上させて、もっと審判がうまくなりたい。ここで終わりじゃない」。甲子園で得たものを地元の静岡で若い審判にも伝えていきたい。