綾野剛・豊川悦司主演「地面師たち」原作小説とドラマ、それぞれが強みを発揮できる演出に納得! 原作既読組が度肝を抜かれた改変も
■原作で読んでほしい、ドラマで描かれなかった地面師たちの一面
キャストが発表されたとき、誰も彼もが原作のイメージ通りで「ぴったりだ!」と歓声を上げた。過去を背負う拓海役の綾野剛さん、狂気のリーダーであるハリソン山中の豊川悦司さんはもちろんだが、小池栄子さん(尼僧と手配師の両方があそこまで似合う人いる? )も北村一輝さんも、高圧的な司法書士のピエール瀧さんも、原作からそのまま抜け出たようで、これから原作を読む人もドラマのキャスティングのまま抵抗なく読み進められるだろう。 だがひとりだけ設定の異なる人物がいた。偽造書類の作成を請け負う長井だ。ドラマでは染谷将太さんが演じ、独特のオタクっぽさが絶品だったのだが、彼だけは原作とキャラクターが変わっていた。 原作の長井は他人と関わることを拒絶し、ハリソンからの依頼も最初は断る。それにはある事情があったのだが、その長井の心を溶かしたのが拓海だ。長井のもとを訪れた拓海はひょんなことから長井が人目につかない生活を送る理由を知る。その理由は、拓海自身の過去をも想起させ、拓海は長井に深いシンパシーを寄せるのだ。人恋しい、けれど人と交わるのが怖い、そんな長井の心を拓海が和らげていく。スリリングな物語の中にあって、拓海と長井のシーンは仲のいい男同士らしい、微笑ましさすらある。ここはぜひ原作で味わっていただきたい。 この部分をカットした代わりに生まれたのが、拓海がホストクラブに潜入するくだりだ。拓海は作戦の一環として、長井に頼んで頬にケロイド状の火傷跡の特殊メイクを施す。ドラマだけだとそのままスルーしてしまうが、原作を読んでいると、原作の長井のエピソードをこういうふうに転用したのかと、演出の元ネタに気付けて楽しいぞ。 原作・ドラマともに、ハリソン山中が警察から逃げおおせていることが仄めかされて終わる。ドラマではどこかの雪山にいたが、小説のラストシーンはシンガポールだ。今年7月に刊行された続編『地面師たち ファイナル・ベッツ』(集英社)では、シンガポールにいるハリソン山中が次の獲物を見つける。今度は北海道の200億円相当の土地を巡って、再び地面師たちの知略が味わえる次第。被害者も前作とかなりタイプが違うので、ぜひ続編もお楽しみいただきたい。 大矢博子 書評家。著書に『クリスティを読む! ミステリの女王の名作入門講座』(東京創元社)、『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』(文春文庫)、『読み出したらとまらない! 女子ミステリーマストリード100』(日経文芸文庫)など。名古屋を拠点にラジオでのブックナビゲーターや読書会主催などの活動もしている。 Book Bang編集部 新潮社
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