満島ひかり「“大型新人”を自分の肩書きに、今までと違う筋力を使った」──映画『ラストマイル』
映画『ラストマイル』が8月23日に劇場公開される。主演を務める満島ひかりに訊いた。 【写真を見る】満島ひかりは、自然体も規格外?
満島ひかりは、規格外の人だ。「Woman」や「カルテット」「それでも、生きてゆく」といった坂元裕二脚本ドラマで示した「役が現実に生きているとしか思えない」芝居の深度、『悪人』や『愚行録』で晒した痛々しいまでの生っぽさ、Netflixシリーズ「First Love 初恋」で魅せた「記憶を取り戻す」表現の繊細さと覚悟──。 作り物ではない感情をビビッドに表出させる“エンジン”ともいえる豊かな感受性は、小学校時代から「日常を面白くする創意工夫」によって培ったものだ。 インタビューも型にハマらず、聞き手の“人”そのものを見たフラットな日常会話から始まる。それでいて世界の真理のような格言を急に“発明”するから、どうしようもなく面白い──。 思考や行動のスケールは計り知れない。インタビュー中には自身を「人間だと思っていない」と発言したが、ひとたび満島の表現に触れた者なら「確かにそうかも」と納得させられてしまうはずだ。
満島の映画『ラストマイル』は、人気テレビドラマ「アンナチュラル」「MIU404」と同じ世界線にあるシェアード・ユニバース・ムービーという位置付けになる。流通業界最大級のイベント「ブラックフライデー」前夜、世界規模のショッピングサイトから配送された荷物が爆発する事件が発生。それはやがて連続爆破事件へと発展し、新任の配送センター長・舟渡エレナ(満島ひかり)は対応に追われてゆく──というストーリーだ。 異例のヒットとなった「First Love 初恋」から約10カ月を経て、映画『ラストマイル』に参加した満島は、どのような想いを秘めていたのだろうか。 「私は20歳頃からお芝居を始めましたが、素敵な監督や脚本家・共演者との出会いに恵まれて、とても濃密な15年間を過ごしてきました。生きているうちの自分の可能性が何億通りもあるとしたら、その中のとても大きな一つがこれまでの歩みだったと思います。それらを一度宝箱に仕舞って、鍵をかけようという想いで臨んだのが『First Love 初恋』でした。自分にとって次の章に当たる『ラストマイル』では、今までと違う筋力を使ってみたい気持ちがあり、“大型新人”を自分の肩書きに掲げて現場に入りました(笑)」 この道を進み続ければ、安定で盤石なキャリアが約束されていたに違いない。だが満島は、未知の方向に賭けた。“わからなくて面白い”環境に身を置いてこその表現者・満島ひかりだ──部外者からはそう言えてしまうが、慣れ親しんだ方法論を捨てて“新人”として挑むのは、相当な困難を要しただろう。満島本人も「不安定だったし、宙ぶらりんでした」と振り返る。 「撮影の間に何度も元のクセに戻りそうになりましたが、そうじゃないほうがいいと感じていました。エレナもちょうど人生の迷路をさまよっていて新しい扉を開いた役柄であり、そこに私自身も便乗した格好です。とはいえ、塚原あゆ子監督の現場で、野木亜紀子さんの脚本だから許されていたことだとも思います。私のそういった部分も見越してキャスティングしていたのかもしれません」 満島は塚原監督・野木・新井順子プロデューサーのトリオへの感謝を述べた。舟渡エレナ役は満島の“当て書き(演者を想定して脚本を書くこと)”。彼女への信頼が感じられるところだが、エレナの思考回路を把握するのには苦労したという。 「発送された荷物が爆発するかもしれない」という状況で、「何万人かの人生が変わるかもしれない選択を1秒ずつ迫られている」という“組織のトップ”役にどう説得力を持たせていったのか。想像力をフルに使いつつも自身の肉体での“経験”を重視する満島だからこそ、難しい現場であったことは想像に難くない。 「大きく分けて2つの経験が活きました。1つは独立したこと。出るだけの仕事ではなく、スケジュール管理や金銭のやり取りをこの5、6年で学び始めて、スタッフの方々と同じ立ち位置でコミュニケーションを取る機会も増えてきました。フリーランスになって旅をするように仕事してきたからこそ咀嚼できた役柄であると感じます。ある種、情がこもった人物として描かれているよりもよっぽどリアルかもしれない。そしてもう1つは、Netflixでのドラマを経験して外資系の会社と4年ほど密に関わったことです。そこで働いている方々の動き方を理解した経験──“この人はなんでこんな重いことを軽く話すんだろう”と思っていたら、後から“他のこともたくさん考えていたんだ”と気づかされたり──がエレナを演じるうえで助けになりました」