満島ひかり「“大型新人”を自分の肩書きに、今までと違う筋力を使った」──映画『ラストマイル』
いわゆる“役作り”において、「私はハートの部分はあまりいじりません。とにかく心がけているのは、器作りです」と語る満島だが、本作では自身の退路を断った。撮影期間中には公私ともに他の予定を入れず、かつ「次の出演作が決まっていない」状況に追い込んだという。 「次の作品が決まっていると、顔に安心感が出てしまうかもしれない。この作品で最後かもしれないのにこんなにうまくいかない私という、ガタガタの階段をヒールで上るような環境を作っていました。また、マクロで考える人を理解できるように、常にマルチタスクを課していました。たとえば、他の方と芝居をしていても違うことを考えるようにしたり、カメラに映らないところで足の小指だけずっと動かしていたり──。一つのことに没頭・集中しないように意図的に頭の中に余白を作って、常に“逃がす”ようにしていましたね」 ”器作り”で機能してくれたのが、彼女にとって「お守り」という衣装やアクセサリーだ。 「身を護る武装のようにアクセサリーを纏う女性たちを知っていて、今回のエレナもグーでパンチされたらみんな鼻血が出ちゃうんじゃないかというくらいたくさん身に着けています。これもまた過集中状態を“逃がす”一環で、指輪を一つ見たら役のことを思い出せるようなアイテムとしても使っています。ちなみに衣装に関しては、ヴィンテージのアイテムを集めてもらいました。当初は美しいキャリアウーマンのようなスタイルだったものを“通販サイトで買えないような服にしたい”と変更してもらって。エレナはユーザーが気軽にポチれる流通サービスを運営していますが、その環境下で自分を保つために、歩いて見つけに行かないと手に入れられない服を纏っているのではないかと考えたんです」 過去の出演作で俳優・満島ひかりの演技を目の当たりにし、「憑依型」や「感覚派」と捉えている人が多いのではないだろうか。それは事実ではあるが、一面に過ぎない。本人は「この役を演じるためには何が必要か」という短期的な目標/タスクと、「次の自分に進むためにはどのスキルを会得すべきか」という長期的な目標/ミッションを明確に設定しており、そうした意味では逆算して動く「理論派」でもあるかもしれない。 それでもまだ満島ひかりを説明するには言葉が足りないだろう。彼女の真ん中にあるもの、それは未知の世界に飛び込む度胸、自身の可能性を信じる強いマインドであるわけだが、それが規格外なのだ。 今回のインタビューの中で「確証のない場所に飛び込むのに不安はないのか?」と尋ねたときのことだ。「それぞれの職業で個別にあると思いますが」と前置きしたうえで、「役者は、よく“セリフが全く頭に入ってないのに舞台に立たないといけない”夢を見るんです」と切り出した。 「私の場合はベースとして“人生は茶番”と思っているフシがあるため、『セリフを覚えていないけど1回出てみるか』と舞台に立ってみます。それで『ヤバい、全然ダメだった』と思ったら1回下がる(笑)。『どうやったらまるで2カ月練習した演劇のようにお客さんたちを2時間魅了できるだろうか』とアイデアを練ってもう1回登場します。頭をいくら回しても真っ白で、ものすごく緊張していて足がすくんで、それでも何も後がないからこそ驚くほど堂々としてもいる──エレナもきっとそんな状態だったのではないかと思うんです。撮影期間はその状態を保てるように意識していました」 悪夢を楽しむ強心臓、逆境を糧にする機転力、型を破壊できる大胆さと創造性──。自身を何度でも生まれ変わらせる”新人”満島ひかりは、やはり規格外としか言いようがない。