満島ひかり「“大型新人”を自分の肩書きに、今までと違う筋力を使った」──映画『ラストマイル』
映画『ラストマイル』
流通業界最大のイベントである11月のブラックフライデー前夜、世界規模のショッピングサイトの関東センターから配送された段ボール箱が爆発する事件が発生。連続爆破事件へと発展する。関東センター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)とともに事態の収拾にあたるが……。 2024年製作/129分/G/日本 配給:東宝 劇場公開日:2024年8月23日
満島ひかりの素顔に迫る質問
──ここからは編集担当の神谷が伺います。約25年前、この仕事を始めて、一番最初の現場でお会いしたのが満島さんだったんです。Folder時代ですね。お会いするのはそれ以来です。 一番最初の現場が私のグループだったなんて面白いですね。ご縁を感じます(笑)。何言ってるかわからない子どもたちだったんじゃないですか。突然踊っちゃったり。 ──確かに、部屋の中で勝手に踊り出していました。 その当時の事務所の社長さんに、「暇があったら、座ってないでビート打ってろ」って言われていたので(笑)。暇があると「今日は16ビートで行こう」みたいな感じで。 ──好きな音楽、アーティスト、曲を教えてください。そして、どんな時に聴きますか。 大変な質問ですね。時間かかるな~(しばし熟考)。面白いなと思うのは、ウインターガタンというスウェーデンのバンド。10年以上聴いています。Starmachine2000という曲が好きです。 ──これ、どんな時に聴いていますか? いつでも聴けます。たまにセットする、目覚まし時計の音がこれです。自分のメンタルに近いのかも、この音楽。 ──ものすごくポップで明るいんですね。 明るいけど、やってること、だいぶマニアックですよね。インスタレーションとか実験音楽に近いけど、奏でているメロディーが美しい。教会音楽や民謡に近いセイントな感じが好きなんです。 ──オフができました。完全なオフで、1日時間が空いたら何をしますか。 今は映画の宣伝期間で激務中ですが(笑)、完全なオフは週に2回持つようにしています。寝るだけの日もあるし、アニメを見ている日もあるし、思いついた場所に旅に出る日もあるし。 ──アニメは何を見ているんですか? 最近のアニメ、よく瞬きをするんですよ。瞬きが上手なんです、絵の描写が。こんなことされたら、人間のお芝居いらなくなるんじゃないかと思うぐらい。すごく躍動的な表情をする時があったり、何か宿っているような時があったり。最近は「攻殻機動隊」を1作目の映画から最新作まで見ました。 ──アニメの瞬きが演技の参考になることもあるのですか? 浄瑠璃とかに近いという感覚で見ているのかもしれないですね。絵が止まっているからこそ、声から聞こえてくる音がものすごく豊かに思えたりとか。時が歪むような、時がズレるようなアニメーションの仕草は、私に影響しているのかもしれない。 ──1週間オフをもらいました。何をしたいですか? 1週間どころじゃなくて、『ラストマイル』の後は7カ月休んでいました。 ──7カ月! 今までそんな空いたことあるんですか。 ないです。全然そんなつもりなかったんですけど、友だちの知り合い、会ったことない人たちと旅をして、そこで紹介された、会ったことのない人の家に泊まったり、そういう旅をしていました。 ──どんなところに行っていたんですか? デンマーク、スウェーデン、ドイツ、フランス、日本の東北です。何か楽しそうな旅をする人がいるらしいって聞いて、「じゃあ行こうかな」って、出発の1日前に飛行機のチケットを取りました。ドイツの空港に行くと、初めて会った人たちが迎えに来るんですよ。 ──本当に1人で乗りこむんですね。 最近はsnsとかで、自己紹介のように誰がどんなアーティストなのか知れるから、ある程度どんな人なのかを見て連絡は取っていました。それがあまりにも楽しい旅になったので、おかわりみたいに、北欧で出会った友だちと更に深い旅をしに、再び会いに行きました。 ──そのスタンスの旅でおかわりとはすごいですね。 出会ったばかりの人の家でご飯を作って食べたり、デザイナーさんが洋服をくれるって言うので、「じゃあモデルやるよ」っていってモデルをやったり。今までやらなかった、仕事にはならないようなことを、どれだけできるかがテーマというか。海外には物々交換で生きているような才能豊かな人がいっぱいいて、そういう人たちと旅しているのが楽しかったですね。 ──旅の様子は想像の範疇でしかないんですけど、楽しそうに話す満島さんを見ているこちらも楽しくなります。 楽しいけど、遊びって疲れるなあって。楽し過ぎちゃって、気がつくと体がボロボロ。 ──何でも買えるなら、何が欲しいですか? え~、何でも買える。えっ、何でもっていうのは、現実に存在するものですよね。 ──空想の世界でもいいかもしれないですね。 難しいですね。何にも買わないで生きていけるなら、何にも買わない。そうやって言われると、何にも欲しくなくなりますよね。 ──今買いたいものは何ですか? 何でも買えるなら、免許取らないで運転できる車が欲しい(笑)。 ──もしかして運転が? 何度もチャレンジしているんです、免許。3回行ったことがあるんですけども、3回とも途中で呼び出されて、「向いていません」って。 ──向いていません! そう言われたんですか? はい、「向いていません」って。隣りの人から話しかけられると、両手を放しちゃう。運転自体は上手いんです。でも、話していると、両手が離れちゃうんです。景色を見ようとすると、「綺麗だなー」って、足も離れちゃう。 ──でも、運転はしたい。 ふらっと好きな場所に行けるでしょ。車の中は小さな秘密基地って感じで、憧れます。 ──生まれ変わるなら何になりたいですか? 他のものに生まれ変わるのを想像するとすごく恐くなります。たとえば家族の中で煩わしいことがあったり、友だちと喧嘩したり、仕事でほんとうに苦しかったり、孤独だって感じたりしていても、別の誰かに生まれ変わることを考えると、自分のまんまの方がいいかもしれないって思ってしまいます。 ──ここまでの人生を振り返って、そんな自分に点数をつけるとしたら何点でしょうか? 人間じゃないので、私。点数とか大丈夫です。自分のこと人間じゃないっていうカテゴリーで見ています。 ──気分転換に何をしますか? 気分転換はいつでもできます。リセット、すごく得意かもしれないです。自分の体だけで遊べますよ。 ──冷蔵庫に必ずあるものは? マヨネーズ。マヨラーなので、何でもかけます。カレーにも入れます。 ──人生、最後に食べたい食事は。 豆一粒でもいいから、好きな人とご飯が食べたいです。好きな人っていっても、ラブ、恋人だけじゃなく、友だちも含めた好きな人。 ──今好きなファッションブランドとかデザイナーとかっていますか。 ALAÏAさん、面白いと思います。ふだん着られない服なんですけど、すごくカッコいい。攻殻機動隊の主人公・草薙素子みたいになれるので、いいなと思います。 ──今ファッションアイテムで気になっているものはありますか。 デンマークに行った時に友だちが、「新しいものなんか買っちゃだめだよ」って言っていたんですよ。それもあって、最近は新しいものが欲しくなるたびにドキドキしています。 ──罪悪感なのか、ドキドキするんですね。 確かにな、と思って。世界中がこんなに素晴らしいもので溢れているんだから、あるものをどう面白く活かすかを考えるほうがいいんじゃないかって。日本もリサイクルショップや古着屋さんが増えていますね。最近は新しいものが欲しくなっても、できるだけ手をひっこめるようにしています。 ──リサイクルショップで探したりするんですね。 それより、もともと持っている服をリメイクしたりすることが面白いんですよ。 ──好きな映画は? 映画というよりも、好きなシーンはいっぱいあります。いつでも思い出すのは、『ニュー・シネマ・パラダイス』。冒頭の、カーテンの揺れる小さな窓から見える光る海、モリコーネの音楽、カットされた白黒フィルムをつなぎ合わせた沢山のキスシーンを見ている主人公・トトの眼差し…大好きな場面だらけです。他には、『ポンヌフの恋人』で花火の中バーッと踊っている場面、『世界中がアイ・ラヴ・ユー』のゴールディ・ホーンとウディ・アレンがセーヌ川で踊る場面も好き。 ──すごくハッピーな顔して思い出すんですね。 ほんとうに好き。ゴールディ・ホーンとウディ・アレンが踊っていて、ダンスシーンをうっとり観ていたら、宙を浮くんですよ。「ここで宙吊り」って、すごい。そんな映画のマジックを感じるロマンティックな場面が好き。ネオンとかキラキラがどこかにあります。フィルムのキラキラ、セーヌ川のきらめき、花火のキラキラとか。キラキラのある映画が好きみたいです。 ──観る映画をどうやって選んでいますか? 10代や20代の頃は、とにかく流行とは違う映画を観るようにしていました。アテネ・フランセに日本未公開の作品を観に行ったり、新文芸座のオールナイトに行ったり。私以外はおじさましかいないとか、私以外は違う国の人しかいないみたいなところに行って。メジャー作品はいつか観られるから、とにかく観たことのない作品を観て世界を知りたかった。 ──誰かの助言があったわけではなく、自分で考えた。 好奇心旺盛な少女だったと思います。私自身も映画に出演するようになって、その脚本にまつわるいろんなことからヒントを広げて、また観たことのなかった映画に辿り着いたり。舞台でチェーホフのかもめを演じた時は、ニキータ・ミハルコフ監督の作品に辿り着いて、「こんなに柔軟に世界を描けるんだ」とか、「これこそがいい男だ!」って感動したり。 ──ニキータ・ミハルコフがそうなのかもしれないですけど、影響を受けた監督、俳優は? いっぱいいるなー。映画以外でもいっぱい、影響だらけですよ人生。 ──この人の芝居、好きだなあっていうのもそうなのかもしれないですね。 いろんなところから受けているんでしょうね。ジュゼッペ・トルナトーレの『ニュー・シネマ・パラダイス』もそうですが、自分のふるさとを描いている監督って子どもの時から見ている景色、知っている景色を映画に捉えているから、ものすごい懐かしさに襲われる時があります。自分の中の美意識を意識するようになったのは、そういう故郷を撮っている監督たちの作品を観たのがきっかけかもしれません。 ──何度も見返しますか? 好きな映画は100回以上観るので、何回観たかはもうわからないですね。自分の生活の音とか、1日1日違う景色の中に映画が共にある感じが好きで、それで、同じ作品を何度もリピートして流してしまうんです。1つの作品と、私は友だちになっているんだろうなって、思う。 ──影響を受けた役者はいかがですか? テレビがなかった時代の俳優さんとか、自分の作品を映画館に行かないかぎり観られなかった時代の俳優さんの顔つきに、影響を受けるかもしれないですね。それこそ人じゃなくて、絵画や写真から影響を受けることもあります。最近は、歳を重ねたロバート・デ・ニーロさんが素敵すぎて、ああいうふうに画面の中に溶けられる人になりたいです。 ──歳を重ねたデ・ニーロは何が変わってきたんですかね。 画面に溶けています。より一層、映画自体と同化してる感じ(笑)。 ──ハッと見たら、デ・ニーロだったみたいな。 うんうん。画に映っている余白がたくさんあって、好きです。 ──最後の質問です。今まで読んだ本の中で一番印象に残っているものは? 一番を決めるのは難しいですが。漫画家・上田トシコさんの『フイチンさん』という作品がとても好きです。フイチンさんは、満州のハルピンのお屋敷で、門番をしているお父さんの娘。頭が柔らかくて、素直で明るくて、漫画の中の彼女の姿を読んでいると、とても癒されるんです。例えば、わかりやすいページだと「あのおじさん神さまかな、ごこうがさしていたわ」「あれは、はげあたまがひかったんだよ」とか、ともすれば傷つくような言葉を、あっけらかんと嫌味なく描いているページがいっぱいで。 ──そのシュールさに魅かれるんでしょうね。 リズム感もいいし、絵もすっごく可愛いですよ。絵のコマ一つひとつにおおらかさがあって、フイチンという女の子の見ている、世界の見方が好きなんです。日常にいくつものユーモアを見つけて、好奇心旺盛に反応をして、彼女のものごとの捉え方が和やかで素敵なんです。目の前でどんなに殴り合いが起きていようと、「やだあ、あの人たち愛しあっているのかしら」って。この漫画のそんな感性が私は大好き。 ポロセーター¥246,400、ラップトラウザース¥196,900、オンダ オープントゥ ミュール¥147,400(すべて予定価格) BY LOEWE(ロエベ ジャパン クライアントサービス Tel.03-6215-6116) 満島ひかり 1985年11月30日生まれ、沖縄県出身。1997年、ダンスボーカルグループ「Folder」でデビュー。その後は俳優を中心に、歌い手・書き手・声優など多彩に活動。2023年、クリエイションレーベル「rhapsodies」をスタート。60役以上の声を担当するアニメ番組『アイラブみー』、ラジオ『ヴォイスミツシマ』がレギュラーで放送中。近年の作品に、話題になったドラマ『First Love 初恋』(Netflix・22年)など。 写真・前 康輔 KOSUKE MAE スタイリング・三本和朗 KAZUAKI SANBON ヘア&メイク・星野加奈子 KANAKO HOSHINO 翻訳・LEIYA SALIS 文・SYO 文(Q&A)と編集・神谷 晃(GQ)AKIRA KAMIYA