能登半島地震で被災 輪島塗作家・小西紋野「一回しかない人生。蒔絵にかけたい」避難生活で復興に取り組む今を追う
小さなエリアに作り手が集中しているので、何かあればパッと行って「こういうのできますか」と相談できます。それぞれの工程の担当者が常にコミュニケーションを取りながら作っていく土壌なので、震災後の今、多くの方が輪島を離れてばらばらになっていて、皆さんつらい想いをされていると思います。
■輪島で江戸時代から続く漆器店の9代目と結婚し ── 4年間修業された後、年季明けの年にご結婚されていますね。ご主人は輪島の方ですか?
小西さん:夫は輪島で漆器を扱う店の中では一番古い、江戸時代から続く小西庄五郎漆器店の9代目です。主人と私は同世代で、学校の同級生が主人の家の近所に住んでいた縁で、いっしょに遊んだりご飯を食べたりするうちに親しくなりました。 彼は漆器屋さんなので、販売の専門家であり、最初のうちは作り手のことがまったくわかっていませんでした。輪島では漆器屋さんはものづくりそのものには興味がなく、もっぱら販売専門という方が多いんです。それで作り手と売り手の価値観にミスマッチが起きるというのが、これまでの輪島の問題点でした。
夫も最初はそうだったのですが、作り手のことを理解したい、というのが夫にはもともとあったのでしょうね。それで、私達作り手とも付き合いをしていたのだと思いますが、その中で「やはり作ることが中心でないとだめだ」と次第に理解してくれるようになり、「いっしょにものづくりを考えていこう」と、年季明けの2015年に結婚しました。 ── 結婚後に、独立して蒔絵制作を始められたのですか? 小西さん:お店番をしながら、少しずつ自分の蒔絵の制作もしていました。そうして作ったものを出展した時、漆芸を未来につなげるために新しいチャレンジをしている漆芸職人集団「彦十蒔絵」の主催者、若宮隆志さんから「うちで一緒に活動してみないか」と声をかけられました。
彦十蒔絵では、塗りや蒔絵などの若手漆芸作家たちが若宮さんのプロデュースのもと、アニメーションやアートなど異業種とコラボするなどして、古典技術を大切にしつつ現代的な新しい視点での作品づくりを行なっています。 2017年に、世界的に活躍されている現代アーティストの小松美羽さんとのコラボで、アクリル画で作成された小松さんの原画を蒔絵作品として再現するプロジェクトに関わったのを皮切りに、本格的に彦十蒔絵での活動を開始しました。