3つのギリシア悲劇を再構築した『テーバイ』 長い創作期間を振り返る船岩祐太・植本純米インタビュー
「こつこつプロジェクト」がくれた、ゴールを決めないという贅沢な時間
――これまで「こつこつプロジェクト」で戯曲を育ててきて、苦労されたことはどんなことですか? 船岩 通常の稽古だと、(初日という)リミットが決まっていて、それに向かって作品を成立させなければいけないので、そこで目指しているもの、成立させようとしているものが正しいかどうかを検証する時間が基本的にないんですよね。ただ今回は、壁にぶつかった時に「他の手はないかな?」と探す時間があったんで、逆に言えば、創作上の高い壁にぶつかった時、「これはヒントだな」と感じるというか、何かうまい他の良い手があるんじゃないか? と考えて、テキストを変えていくっていうことも大きな作業のひとつだったんですね。「むしろテキストの方を疑おうよ」ということをしていったから、そういう意味で言うと、すごい壁や苦労と言えることは、もしかしたらなかったかもしれないですね。 植本 もちろん、関係者だけの試演だけでなく、こういうふうにお客様の前で上演できるといいなという思いはあったんですけど、でも、特に上演のために作ってきたわけじゃないんですよね。そうやって、ゴールを決めないというのは、すごく贅沢な時間だったなと思いますね。 船岩 「これで成立」と決めつけないというのは、なかなかできることじゃないよね。 植本 しかも、その時間を無駄に思わなくて済む、そういう時間だったよね。 船岩 「こつこつしていく」ということを、俳優の演技の熟成みたいなところに重きを置くのではなくて、そもそもの企画そのものを熟成させてみようかという方向に今回、僕は舵を切ったんですね。長時間あれば当然、俳優の演技にかけられる時間も増えるんだけど、それよりも、企画として面白いものが出来上がるかどうかのために時間を割こうと。 僕の受け取り方として、このプロジェクトは「企画のプレゼンテーション」みたいなもので、コンペではないし、オーディションでもなく、勝敗があるわけでもなくて、面白いものがあればやってみよう――なんか面白い種を作れたらということで時間を与えるから、ちょっとやってみないか? という懐の深い企画なんだと。 上演のラインアップを決める時に、こういう生まれ方をした作品があること、選択肢が増えていくこと――より良いものをピックアップしていこうという試みはすごく価値があるんじゃないかと思っています。 取材・文:黒豆直樹 <公演情報> 新国立劇場の演劇『テーバイ』 原作:ソポクレス『オイディプス王』『コロノスのオイディプス』『アンティゴネ』 翻訳:高津春繁(『オイディプス王』『コロノスのオイディプス』)、呉 茂一(『アンティゴネ』)による 構成・上演台本・演出:船岩祐太 出演:植本純米、加藤理恵、久保酎吉、池田有希子、木戸邑弥、高川裕也、藤波瞬平、國松 卓、小山あずさ、今井朋彦 2024年11月7日(木)~11月24日(日) 会場:東京・新国立劇場 小劇場