90億人の大移動その陰で“帰りたくても帰れない” もうひとつの春節
旧正月“春節”の大型連休まっただなかの中国。のべ90億人の大移動は、日本でもその経済効果が期待されています。しかし、故郷に帰りたくても帰れない人もいます。背景にあるのは、長引く“中国経済の低迷”。私たちは14億分の1の“春節”を追いました。 (NNN 中国総局 森葉月) 【動画】故郷の母「会えなくてさみしい」小さなスマホの中で・・・
■“のべ90億人の大移動” 景気低迷が影響 移動手段も変化
旧正月の“春節”連休まっただなかの中国。政府の事前予測では、“のべ90億人”が大移動するという。これまでは、鉄道や飛行機など、公共交通機関での移動人数のみを発表していたが、今年から「マイカーなどでの一般道の移動・72億人分」を上乗せする算出方法に変更した。 専門家は『数字を大きくすることで、“中国経済は明るい”とアピールするカラクリがあるのではないか』と見ている。ちなみに、従来のカウント方法では、去年より14%ほど減少する見通しで、中国経済の失速感がうかがえる。 かつては“爆買い”が流行語大賞に選ばれるなど、中国から多くの観光客が日本に押し寄せた。しかし、国際線の回復も遅れているほか、春節期間中の中国国内の移動手段にも変化が見られた。 春節前日、北京郊外の高速道路のパーキングエリアを覗いてみると、各地方からのナンバープレートが目立つ。北京と2000キロも離れた南部の広東省や内モンゴル自治区など。旅行客などからは「高速道路の通行料金が無料なのは大きい」と喜ぶ声が聞こえてきた。市民の財布のひもが固くなっていることが浮き彫りになった。それでも旅先や故郷に向かう人々の表情は明るい。そんなウキウキとした雰囲気に包まれた高速のパーキングで、私は少し雰囲気が異なる男性に出会った。
■コロナ禍で会社倒産 “仕事があるだけで光栄”
念入りにワゴン車を拭く50代の男性。車の壁面には“配送会社”というステッカーが貼られていた。聞けば、春節の1か月前から配送業を営み、北京を中心に中国北部の各地に荷物を運搬しているという。 『今年は実家の河南省には帰れない。家計のために仕方ない』 男性は1か月前まで建設業を営んでいたが、コロナ禍の影響で工事が頓挫するなどして会社が倒産。人件費なども払えず、多額の借金を背負ったという。ただ、この歳になって未経験の職種に就くことは想像しておらず、体力面でも厳しい状況にあるという。 『正月も関係なく働くのは金のため。底辺の生活をする人間にとって、仕事があることだけでも光栄なんだ。涙も出ない。今はもう笑うしかない』 彼に春節休みはない。