90億人の大移動その陰で“帰りたくても帰れない” もうひとつの春節
■報じられない14億分の1の春節 “今のうちに稼ぎたい”
中国の市民にとって春節は、年に1度家族が集まる大事な時間。たとえ都市部に出稼ぎに行っていたとしても、この時期だけは故郷に帰り、特に大晦日の夜は家族で食卓を囲む。 そんな大晦日にあたる今月9日、北京の中心部から車で30分ほどの場所に、朝7時前から多くの人が集まっていた。彼らは、日雇いの仕事を探す労働者と職業仲介人。 春節期間中は、出稼ぎ労働者の多くが故郷に帰省するため、毎日稼働する部品工場など、一部の仕事を中心に人手不足が深刻化する。 物流倉庫の仕分け業者も頭を抱えていた。『春節期間中は人を雇うのに余計なコストがかかるんだ』普段は1日200元(日本円で約4000円)の日給を支払うというが、春節は最低300元(日本円で約6000円)を保障するという。しかし、職を探す側から見ると、春節の里帰りまで諦めた代償としては“通常の1.5倍でも全然足りない”という思いが強い。
■大晦日に田舎の母へ電話 “母さんご飯食べられてる?”
欲しいものがスマホ一つですぐに手に入る、中国の物流サービス。電化製品ですらも、早ければ注文したその日のうちに自宅まで届けてくれる。その便利さゆえ、春節休みなどお構いなしに私も注文してしまうのだが、その影響をもろに受けるのが配送ドライバーだ。 春節中は、配送ドライバーも帰省する人が多い。雇用する側も人手不足に手を打たなければならず、臨時で給料をあげるしか術がないという。 こうした中、帰省を我慢してでも春節中に稼がざるを得ないという男性と出会った。『生活は正直厳しい。年末は注文数が多いから嬉しいよ。今年は帰省しない同僚も多いんだ』と話すのは、河北省から出稼ぎに来ている30代の張さん(仮名)だ。 春節期間中は1000元(日本円で約2万円)のボーナスが特別支給されるという。 例年の大晦日は母の手料理の並んだテーブルを囲んでいたというが、今年は自らの手料理で同僚のドライバーをもてなし、1年の労をねぎらった。『乾杯!』笑顔を見せる一方で『春節は家が恋しくなるよね』とこぼす。 春節期間に少しでも多く稼ぎ、田舎の家族に楽をさせてあげたいという。故郷には帰省できない代わりに、テレビ電話で母に新年の挨拶をした。 張さん 『母さん、新年明けましておめでとう』 母親 『ちゃんとご飯は食べたのかい』 張さん 『母さんこそ、ちゃんとご飯は食べられてる?』母親『1年も会えてないから、さみしいわ』 遠く離れていても互いを思いやる気持ちが、小さなスマホの画面の中で重なる。