会社に壊されない生き方(2)会社員時代より幸せ「ダウンシフト」という選択
「良い大学」の次に「良い会社」はあるのか?
池袋の「たまTSUKI」には、「会社を辞めたい」と悩みをこぼす客が大勢訪れる。 彼らに対し、たとえば高坂さんはこういう対応をするのだという。「辞めたいがどうすればいいのかと問われたら、『辞めればいいんだよ』とまずは答えますが、お客様が少なければ、仕事がひと段落したあとにその人の横へ座り、ビールを飲みつつ同じ視線で話を聞きます。ローンの話、家族の話、自身の葛藤の話。私もつらい思いを経験しているので、その人の苦しさを少しでもやわらげ、抜け出せる近道を作りたいですね」 高坂さんのような生き方にあこがれるが、なかなか踏み切れない、と悩む人もいる。とある大手企業を退職したという男性は、「自分はほどほどの年収でも生きていけるが、子供を良い大学に行かせられないのではないか」と話したという。「良い大学」という言葉の次に続くのは「良い会社」だろうか。確かに、子供の教育には金がかかる。 対して、高坂さんは男性の悩みに共感しつつも、次のような話をした。「あなたは、ステータスがあって年収もよい大企業を苦しんだ末に退職していますが、お子さんに同じ道を歩ませるのでしょうか。もう、大学を卒業しても約3割が就職できないし、大企業に入っても終身雇用は期待できません。お子さんが、そういう時代を生きるための力をつけるには、自ら生き方を示すことが良いのでは。それに、経済力がなくても大学には奨学金で通えます。お金がなくたって選択肢を奪うわけではありません。もっとも貸与型の奨学金については注意が必要ですが」。
「比べない」「足るを知る」「感謝の心」
子供の教育費を含め、お金の問題はしばし私たちの頭を悩ませるが、高坂さんのように、半分以上の軸足を農に置くダウンシフトの生き方は、都会の生活者よりも必要なコストが少なくて済むようだ。 「地方では、月3万円もあれば立派な一軒家が借りれます。食べ物も自分で作れば良いですし、近所の方々からもあまった農作物を山ほどもらえます。そうなると、お金はほどほどで大丈夫です。1人暮らしなら10万円、夫婦2人で15万円、小さい子供が2人いる家族でも20万円あれば、貯金もできるでしょう」 ほどほどの月収で良いなら、稼ぎが多少小さくても十分暮らせる。たとえば、整体院を開いている高坂さんの知人は、1日の通院客2人で売り上げ金額計1万円、月に20日開いて合計20万円の収入を稼ごうと計画し、実際に十分成り立っているという。 匝瑳市での暮らしについて、高坂さんは「食べ物を作るのも楽しいですし、近所の人から野菜をもらうと感謝の心を持って生きるようになります。幸せを生む価値観は、『比べない』、『足るを知る』、『感謝の心』だと思いますが、この3つがそろうので皆楽しそうです」と語る。 皆が皆、農業に主軸を置いた暮らしができるわけではないが、心がひかれる人は、このダウンシフトという生き方を選択肢の1つとして考えてみてもよいかもしれない。 (取材・文:具志堅浩二)