中津川の老舗酒蔵が北海道へ移転、地球の“温暖化”から逃れる人々
1500㎞以上も離れた北海道へ引っ越しを決意した老舗酒蔵『三千櫻酒造』。大きな決断の背景にあったのは、地球の“温暖化”だった。岐阜県で愛され続けてきた“岐阜県の地酒”は、“北海道の地酒”として新たな歴史を築いていく。
中津川から1500㎞以上も離れた北海道へ移転
岐阜県中津川市、田畑が広がるなか、煙突が目立つ建物が。明治10年創業の『三千櫻酒造』の酒蔵だ。歴史を感じる蔵のなかには、米を蒸す窯やタンクが並ぶが蔵内に人の気配はない。実は『三千櫻酒造』、約4年前に中津川市から“引っ越し”をしたのだ。
中津川を代表する地酒の酒蔵として、長く愛されてきた『三千櫻酒造』。地元で飲食店を営む店主は「ショックというか残念な気持ち。山田さんの気持ちも理解できるので、応援という意味で送り出すことはできましたけど」と当時の心境を振り返る。
“山田さん”とは、『三千櫻酒造』の6代目・山田耕司さんのこと。山田さんが引っ越しを決めた場所、それは中津川市から1500㎞以上も離れた北海道東川町だった。
今月8日、東川町に新設された『三千櫻酒造』の蔵の中では、山田さんをはじめ職人たちが麹造りに取り組んでいた。暖房を入れた蔵内は、温度計で温度管理。その重要性について、山田さんは「(温度管理は)重要です。麹の生育温度でちょっとずつ生成する酵素が変わってくるので」と話す。日本酒造りに重要な“温度管理”。それが、中津川市では難しくなってしまったという。
その大きな理由が、地球温暖化による冬の気温上昇。中津川ではこの45年間で、3月の平均気温が約1.7℃も高くなっていた。気温上昇の影響を受けるのが、蒸し米と麹などを混ぜ発酵させる作業。これまで『三千櫻酒造』では、中津川の冬の冷たい外気を使い、低温管理を続けてきた。しかし、平均気温の上昇により、その作業が困難になってしまったのだ。
明治10年から続く酒蔵。老朽化した蔵は温度管理がしにくく、また冷房を完備することは資金面で難しかったという。中津川では気温の高い日は氷を使って冷やしていたが、北海道東川町では扉の向こうは雪景色だ。昨年3月の気象庁のデータによると、東川町の3月平均気温は、中津川より7℃以上低い2.2℃。つまり、酒造りに適した“寒さ”なのだ。山田さんは「ここを開けておけばいくらでも外気がはいってくる。この寒さは大事ですね」と東川町の気候について話した。