3・11に誓うラグビーW杯開催地・釜石の役割
かねてから「鉄と魚とラグビーの町」と謳われてきた岩手県釜石市に、2019年、ラグビーワールドカップがやってくる。4年後のことだ。招致に携わった釜石市役所スポーツ推進課課長の菊池拓也氏は、こう気を引き締めていた。 「いまは仮設住宅でいらっしゃる方々がまだまだいる。ぬか喜びはできない。ただ、皆様の復興が促進させる形でワールドカップの準備を進めたいと思います」 3月2日、アイルランドはダブリン。開催会場の決定がアナウンスされた。 昨年秋に立候補した15の自治体のうち選ばれたのは、北海道札幌市、埼玉県熊谷市、東京都、神奈川県横浜市、静岡県静岡市、愛知県豊田市、大阪府東大阪市、兵庫県神戸市、福岡県福岡市、熊本県熊本市、大分県大分市、そして釜石市の12都市だった。 大会を運営するラグビーワールドカップリミテッドと、準備を進める同組織委員会が、今年1月に現地視察。会場の環境や各地域の競技認知度などを勘案し、今回の決断に至ったのだ。組織委員会の島津昭事務総長の述懐。 「私が直接見たわけではないのですが、ワールドカップリミテッドの方を前に、現地の方が大漁旗で歓迎されていた、と。ラグビーのレガシー(遺産)を作っていこうという態度にも感激をし、こういうところで試合をしたいチームもいるだろう、という感想を持ったようです」 1984年度までに日本選手権7連覇を達成した新日鐵釜石のお膝元で、2011年の東日本大震災で津波の被害を受けている。復興のシンボルとして選出の可否が注目されていたなか、島津事務総長曰く「ベスト・オブ・ベスト」の1つに認定されたのだった。 「被災地で試合をする。ここは他の開催都市と明らかに違うところです。その意義を発信していくいい機会になります」 こう話すのは桜庭吉彦。ラグビーワールドカップ2019アンバサダーの元日本代表ロックである。新日鐵釜石を前身とする釜石シーウェイブスのディビジョンマネージャーも務めており、現在も地元で生活する。 トップイーストに所属する釜石シーウェイブスは今季、国内最高峰のトップリーグとの入替戦に初出場。昇格は逃したが、その過程は多くのメディアに扱われた。スポーツチームとしての成長を印象づけていた。桜庭は言葉をかみしめるように語る。 「シーウェイブスのラグビーの情報、釜石でワールドカップをやる意義が色んなところで発信された。これが市民の方にご理解を得る要因のひとつになったと思います。盛り上がりを感じています。大会を契機に、被災地の復興が加速すれば。元気な市民の姿を、震災時にご支援いただいた世界中の国々に発信するという意味でも、意義がある」