3・11に誓うラグビーW杯開催地・釜石の役割
天災で傷ついたラグビータウンに世界大会がやって来る。印象的なニュースのひとつではあるが、本番を迎えるにあたって越えるべきハードルはある。例えば、市民から本当の意味での大会への理解を得ること。これは他の開催地より難しいだろうし、だからこそ菊池氏も「ぬか喜びはできない」と話しているのだ。 肝心な試合会場そのものが、まだできていない。 釜石市は、現在、「釜石鵜住居復興スタジアム(仮称)」の建設を準備している。しかし、4年後の本番を控え、建設予定地はまださら地の状態だ。菊池氏によれば、「周りの復興の状況を鑑みると、(招致決定前に)グラウンドだけを建てるのは(市民からの)抵抗があるだろうな、と」という配慮があったようだ。 グラウンドまでの来場方法についても、「JR釜石駅からのバスを運行予定」「仙台市や花巻空港からの交通アクセスも格段に向上する見込み」など、報道資料には希望的観測のみが記されているに過ぎない。本当にグラウンドはできるのか。できたとしても、どうやって観に行くのか。ラグビー界の伝説的選手だった桜庭も、ただただ至極真っ当なメッセージを伝えるのみである。 「ゼロからのスタート。色んな方の協力を得て、いつまでに何をしなければならないかを考えながらやっていく。(決定して)ほっとしましたが、同時に、責任も感じています」 もっとも、建設計画自体は、しっかりと練られている。2018年の完成予定となっており、菊池氏は「プレイベントなどをやりながら本番を…というのが理想です」と先を見据える。仮設スタンドの設置により、収容者数は16187人となる見込みだ。建設費の約29億円のうち、約19億円は日本スポーツ振興センターの補助金などでカバーされる。残りの約10億円は、市および支援に名乗り出る民間企業が負担する。
今回、釜石市は、岩手県とともに立候補していた。菊池氏は「オール岩手という言葉を使わせていただいています」。予想される経済効果の試算は「まだ数値的には出ていない」としながら、「ワールドカップの準備で復興を促進させる」という青写真を明かした。 「大事にしているのは、ワールドカップが復興の妨げにならない、という点です。身近なところで言えば、ワールドカップの準備をするなかで道路を立派にしてゆくなど、インフラの整備を促進させられれば。(選手や来場者の)宿泊などは、釜石だけでまかなおうとは思っておりません。岩手県内陸の温泉地にもご協力をいただいたり、周りの沿岸の被災された地域にも(いい影響が)波及させたりできれば、と考えています」 選ばれた12都市は、国内でのラグビーの価値向上を託された場所でもある。 いまは、桜庭とともにアンバサダーを務める元日本代表の大畑大介氏が「講演活動でいろんな場所に行くのですが…。日本でラグビーワールドカップがあります、知ってますか? そう聞くと、大体、目をそらされる」と苦笑する状況下だ。「ラグビーのレガシー(遺産)を作りたい」と関係者は口を揃えるが、その効果的な策はあるようで、ない。これは釜石市以外にも課せられた問題だろう。 競技場やインフラの整備、競技や大会についての魅力の発信、閉幕後も残る「レガシー」の醸成…。釜石市を含めた各自治体の「具体的な行動」に注目されたい。 11日、東日本大震災から4年が経った。 (文責・向風見也/ラグビーライター)