毛沢東とナンバーツー・周恩来との「本当の関係」 一種の盟友関係だが、肝胆相照らす親友とも言えなかった
中国共産党は「世界最大のスパイ組織」
橋爪:毛沢東は、いろいろな陰謀の中心にいるが、自分は手を下さない、という峯村先生のご指摘でした。言葉を換えて言うと、中国共産党のなかに、毛沢東ほどの悪人はいなかったのです。 派閥抗争や政治闘争では何が起こるか、どうすれば生き残れるかを熟知し、目的のためなら何でもできた。毛沢東が悪人なのは、家庭環境によるところもあるでしょうが、彼が政治闘争を描いた中国の古典に魅了され、そのノウハウを吸収し尽くしたことにもよる。中国の古典は、宮廷闘争の歴史であり、暗殺の歴史であり、反乱の歴史であり、謀略の歴史です。それを読むとますます人が悪くなり、実際の出来事でも人びとがどうふるまうかが予測できるようになる。毛沢東はそのノウハウを、部下を操縦するのに用いることができた、天才的な陰謀家なのだと思う。 峯村:なるほど、面白いですね。毛沢東が天才的な陰謀家というのは、たしかにそのとおりだと思います。ただ、毛沢東よりも人間が悪かったのは、スパイマスターである周恩来のほうではないかと私はみています。 中国共産党の幹部はしばしば、「我が党は世界最大のスパイ組織である」という表現を使います。結党以来、インテリジェンスを重視しており、全党員が総出で情報収集活動をしているからだそうです。こうした共産党の組織の特性を踏まえると、インテリジェンスのトップである周恩来がスパイ組織をうまく使って、毛沢東に恩を売りつつ牽制をしたことで、最後まで生き残ることができたと分析しています。 (シリーズ続く) ※『あぶない中国共産党』(小学館新書)より一部抜粋・再構成 【プロフィール】 橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)/1948年、神奈川県生まれ。社会学者。大学院大学至善館特命教授。著書に『おどろきの中国』(共著、講談社現代新書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)、『中国共産党帝国とウイグル』『一神教と戦争』(ともに共著、集英社新書)、『隣りのチャイナ』(夏目書房)、『火を吹く朝鮮半島』(SB新書)など。 峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年、長野県生まれ。ジャーナリスト。キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。朝日新聞で北京特派員を6年間務め、「胡錦濤完全引退」をスクープ。著書に『十三億分の一の男』(小学館)、『台湾有事と日本の危機』(PHP新書)など。
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